3.1 表現
定義3.1 (表現)
をLie代数とする.がベクトル空間であり,が準同型であるとき,はの上の表現(representation)である,あるいははの表現であるという.の上の表現が一つ固定されているとき,を上の加群(module over )あるいは加群という.
をLie代数の表現とする.のベクトル空間としての次元を,の次元という.が忠実(faithful)であるとは,が単射であることをいう.
Lie代数の表現と加群は,実質的には同じものである.「を加群とする」というときは,表現を表す記号を明示せずに,をと書くことが多い.以下,いちいち明示しないが,Lie代数の表現に関する用語は,Lie代数上の加群に対しても用いる.
注意3.2
包絡代数の普遍性(命題2.2)より,Lie代数のベクトル空間上の表現を考えることは,その包絡代数の上の表現(すなわち,からへの代数の準同型)を考えることと等価である.本稿では,をLie代数の表現とするとき,これに対応する包絡代数の表現も,同じ記号で表す.
注意3.3
を-Lie代数とする.をの拡大体とし,をベクトル空間とするとき,-Lie代数の準同型を,の上の表現という.係数拡大の普遍性より,-Lie代数の上の表現を考えることは,-Lie代数の上の表現を考えることと等価である.
例3.4
をLie代数とする.
-
(1)
をベクトル空間とし,任意のに対してと定めると,はの上の表現である.これを,の上の自明表現(trivial representation)という.
-
(2)
が(はベクトル空間)の部分Lie代数であるとすると,からへの包含準同型は,の上の忠実な表現である.これを,の自然表現(natural represetatation)という.
-
(3)
命題1.9 (2)より,は,の上の表現である.これを,の随伴表現(adjoint representation)という.
定義3.5 (不変元)
をLie代数とし,をその表現とする.がに関して不変(invariant)であるとは,であることをいう.
定義3.6 (表現の間の準同型)
をLie代数とし,とをその表現とする.線型写像であって,任意のに対してを満たすものを,からへの準同型(homomorphism),あるいはからへの準同型という.さらに,が線型同型であるとき,これを,からへの同型(isomorphism),あるいはからへの同型という.からへの同型が存在するとき,これらの表現は同型(isomorphic)であるという.
3.2 表現に対する演算
定義3.7 (部分表現,商表現)
をLie代数とする.をの表現とし,をの安定な部分ベクトル空間とするとき,が誘導するの, 上の表現を,それぞれの部分表現(subrepresentation),商表現(quotient representation)と呼ぶ.加群に対しては,対応して,部分加群(submodule),商加群(quotient module)という用語を用いる.
定義3.8 (反傾表現)
をLie代数とする.をの表現とするとき,に対して
と定めると,容易に確かめられるように,はの表現である.この表現を,の反傾表現(contragradient representation)という.加群に対しては,対応して,反傾加群(contragradient module)という用語を用いる.
定義3.9 (直和表現)
をLie代数とする.をの表現の族とするとき,と置き,に対して
と定めると,容易に確かめられるように,はの表現である.この表現を,の直和表現(direct sum representation)という.加群に対しては,対応して,直和加群(direct sum module)という用語を用いる.
定義3.10 (テンソル積表現)
をLie代数とする., , をの表現とするとき,と置き,に対して
と定めると,容易に確かめられるように,はの表現である.この表現を,, , のテンソル積表現(tensor product representation)という.加群に対しては,対応して,テンソル積加群(tensor product module)という用語を用いる.
次の定義では,ベクトル空間, , , に対して,からへの多重線型写像全体のなすベクトル空間を,と書く.
定義3.11 (多重線型写像の空間上に定まる表現)
をLie代数とする., , , をの表現とするとき,からへの多重線型写像全体のなすベクトル空間をと置き,とに対してを
と定めると,容易に確かめられるように,はの表現である.この表現を,, , , が定める上の表現という.
をLie代数の表現とするとき,の反傾表現は,と次元自明表現が定める上の表現にほかならない.
3.3 既約表現
定義3.12 (既約表現)
をLie代数とし,をその表現とする.が既約(irreducible)であるとは,であり,がと以外の安定な部分ベクトル空間をもたないことをいう.が可約(reducible)であるとは,であり,が既約でないことをいう.
命題3.13 (Schurの補題)
をLie代数とし,とをその既約表現とする.
-
(1)
とが同型でなければ,からへの準同型は,のみである.
-
(2)
係数体が代数閉であり,が有限次元であるとする.このとき,から自身への準同型は,恒等写像のスカラー倍のみである.
証明
(1) からへの準同型が存在したとする.すると,はの安定な部分ベクトル空間であり,とは異なるから,の既約性より,である.また,はの安定な部分ベクトル空間であり,とは異なるから,の既約性より,である.よって,はからへの同型である.対偶をとれば,主張が従う.
(2) をから自身への準同型とする.仮定より,は固有値をもつ.はの安定な部分ベクトル空間であり,とは異なるから,の既約性より,である.すなわち,である. ∎
定義3.14 (組成列)
をLie代数とし,をその表現とする.の組成列(composition series)とは,の安定な部分ベクトル空間の列()であって,を満たし,任意のに対してが誘導するの上の表現が既約であるものをいう.
命題3.15
Lie代数の任意の有限次元表現は,組成列をもつ.22 2 命題3.15は,Jordan–Hölderの定理の一部である.
証明
の次元に関する帰納法で示す.の場合は明らかである.とし,次元がより小さい場合には主張は正しいとする.は有限次元だから,のでない安定な部分ベクトル空間の中で極小なものがとれる.極小性より,の上の部分表現は既約である.等化線型写像をと書き,の上の商表現をと書く.すると,帰納法の仮定より,の組成列がとれる.このとき,はの組成列である.これで,帰納法が完成した.∎
定義3.16 (完全可約表現)
をLie代数とし,をその表現とする.が完全可約(completely reducible)であるとは,の任意の安定な部分ベクトル空間が安定な補空間をもつことをいう.
命題3.17
Lie代数の表現が完全可約ならば,その任意の部分表現と商表現も完全可約である.
証明
が完全可約であるとする.完全可約表現の任意の商表現はのある部分表現に同型だから,部分表現に関する主張だけを示せば十分である.をの部分表現とし,のにおける安定な補空間をとる.をの安定な部分ベクトル空間とすると,はの安定な部分ベクトル空間だから,の完全可約性より,のにおける安定な補空間がとれる.ここで,直和分解に関するの上への射影をと書くと,容易に確かめられるように,はのにおける安定な補空間となる.よって,は完全可約である.∎
命題3.18
をLie代数とし,をその表現とする.次の条件について,が成り立つ.さらに,が有限次元ならば,これらの条件は同値である.
-
(a)
は既約表現の族に直和分解できる.
-
(b)
は完全可約である.
証明
が既約表現の族に直和分解されるとする.をの安定な部分ベクトル空間とする.すると,Zornの補題より,であってを満たすものの中で極大なものがとれる.このようなをとると,となることを示す.そうでないと仮定すると,あるが存在して,はに含まれない.は既約だから,となり,したがって,となる.ところが,これは,の極大性に反する.よって,が成り立つ.これで,が完全可約であることが示された.
(が有限次元である場合) の次元に関する帰納法で示す.の場合は明らかである.とし,次元がより小さい場合には主張は正しいとする.は有限次元だから,の安定な部分ベクトル空間の中で極小なものがとれる.極小性より,の上の部分表現は既約である.また,は完全可約だから,のにおける安定な補空間がとれる.の上の部分表現はまた完全可約だから(命題3.17),帰納法の仮定より,それは既約表現の族に直和分解できる.よって,も既約表現の族に直和分解できる.これで,帰納法が完成した. ∎
3.4 不変双線型形式
定義3.19 (不変双線型形式)
をLie代数とし,を双線型形式とする.
-
(1)
が不変(invariant)であるとは,任意の, , に対して
が成り立つことをいう.
-
(2)
が完全不変(completely invariant)であるとは,上の任意の導分と, に対して
が成り立つことをいう.
注意3.20
Lie代数上の双線型形式が不変であるための必要十分条件は,任意の, , に対して
が成り立つことである.これは,の随伴表現と次元自明表現が定める上の表現に関してが(定義3.5の意味で)不変であるということにほかならない.また,この条件は,上の任意の内部導分と, に対して
が成り立つことともいいかえられる.特に,Lie代数上の双線型形式は,完全不変ならば不変である.
命題3.21
をLie代数とし,を双線型形式とする.をの部分ベクトル空間とし,
と置く.
-
(1)
が不変であり,がのイデアルならば,, はのイデアルである.
-
(2)
が完全不変であり,がの特性イデアルならば,, はの特性イデアルである.
証明
(1) を上の内部導分とする.が安定であることよりだから,である.すなわち,は安定である.よって,はのイデアルである.同様に,はのイデアルである.
(2) (1)の証明において「内部導分」を「導分」に置き換えれば,(2)の証明となる. ∎
3.5 トレース形式,Killing形式
定義3.22 (トレース形式,Killing形式)
をLie代数とする.
-
(1)
の有限次元表現に対して,
によって定まる双線型形式を,が定めるトレース形式(trace form)という.
-
(2)
が有限次元であるとする.このとき,の随伴表現のトレース形式を,のKilling形式(Killing form)という.
命題3.23
をLie代数とする.
-
(1)
の有限次元表現のトレース形式は,上の不変な対称双線型形式である.
-
(2)
が有限次元であるとする.このとき,のKilling形式は,上の完全不変な対称双線型形式である.
証明
(1) のトレース形式をと書く.トレースの性質より,は対称である.また,任意の, , に対して
だから,は不変である.
系3.24
をLie代数とする.
-
(1)
をの有限次元表現とする.をのイデアルとすると,のトレース形式に関するの直交空間は,のイデアルである.
-
(2)
が有限次元であるとする.このとき,をの特性イデアルとすると,のKilling形式に関するの直交空間は,の特性イデアルである.
命題3.25
を有限次元Lie代数とし,をそのイデアルとする.このとき,のKilling形式は,のKilling形式のへの制限に等しい.
証明
一般に,を有限次元ベクトル空間,をその部分ベクトル空間,を上の線型変換であってを安定にするものとし,が誘導する, 上の線型変換をそれぞれ, と書くと,が成り立つ.さらに,ならば,だから,が成り立つ.そこで,, のKilling形式をそれぞれ, と書くと,任意の, に対して,
である.∎
命題3.26
をの拡大体とし,を-Lie代数とする.
-
(1)
をの有限次元表現とする.の係数拡大のトレース形式は,のトレース形式のへの係数拡大に等しい.
-
(2)
が有限次元であるとする.このとき,の係数拡大のKilling形式は,のKilling形式のへの係数拡大に等しい.
証明
(1) , のトレース形式を,それぞれ, と書く.任意の, に対して
だから,はのへの係数拡大に等しい.
(2) (1)の特別な場合である. ∎
3.6 Casimir元
命題3.27
をLie代数,をその有限次元イデアルとし,を不変な双線型形式であってが非退化であるものとする.をの基底,をの基底であって(はKroneckerのデルタ)を満たすものとし,
と置く.このは,包絡代数の中心の元であり,の基底のとり方によらない.
証明
を自然な線型同型,をが定める線型同型,を包含線型写像,を等化準同型とする.すると,は,線型写像
によるの像にほかならないから,の基底のとり方によらない.さらに,の随伴表現から定まる, , 上の表現と,の随伴表現のへの制限から定まる, 上の表現を考えると,容易に確かめられるように,上記の線型写像はすべて準同型である.これらの表現に関して,は不変だから,も不変である.これは,が包絡代数の中心に属することを意味する.∎
定義3.28 (Casimir元)
命題3.27の状況で,を,とに伴うCasimir元(Casimir element)という.がの有限次元表現のトレース形式である場合には,これを,とに伴うCasimir元という.である(したがって,は有限次元であり,は非退化である)場合には,これを単に,(あるいは)に伴うCasimir元という.
命題3.29
をLie代数,をその有限次元イデアルとし,をの有限次元表現であってそのトレース形式が上で非退化であるものとする.とに伴うCasimir元を,と書く.
-
(1)
は,の自己準同型である.
-
(2)
である.
-
(3)
は既約であり,は係数体の標数の倍数ではないとする.このとき,は,の自己同型である.
証明
(1) だから,は任意のに対すると可換である.すなわち,はの自己準同型である.
(2) のトレース形式をと書く.の基底を一つとり,をの基底であってを満たすものとする.すると,だから,
である.
(3) がの標数の倍数ではないことと(2)より,である.(1)よりはの安定な部分ベクトル空間だから,が既約であることとであることより,である.また,(1)よりはの安定な部分ベクトル空間だから,が既約であることとであることより,である.よって,はの自己同型である. ∎