2.1 基底
定義2.1 (基底)
を有限次元ベクトル空間上のルート系とする.がルート系の基底(basis)であるとは,次の条件を満たすことをいう.
-
(i)
はベクトル空間の基底である.
-
(ii)
任意のに対して,をの元の線型結合として書くときの係数は,「すべて以上の整数である」か「すべて以下の整数である」かのいずれかである.
の基底を固定するとき,の元を,単純ルート(simple root)という.ルートのうち,の元の線型結合として書くときの係数がすべて以上の整数であるものをに関する正ルート(positive root)といい,すべて以下の整数であるものをに関する負ルート(negative root)という.に関する正ルート,負ルートの全体を,それぞれ, と書く.
定義から明らかに,ルート系の基底は,割れないルートのみからなる.
をルート系とすると,の自己同型は,基底を基底に移す.これにより,自己同型群は(したがってWeyl群も),の基底全体のなす集合に作用する.
命題2.2
をルート系とし,をその基底とする.異なる二つの単純ルート, は,直角または鈍角をなす.
証明
基底の定義よりだから,主張は系1.26 (1)の対偶から従う.∎
本小節の以下の部分では,を有限次元ベクトル空間上のルート系とするとき,に関するルート鏡映の鏡映面をと書く.すなわち,
である.を上の不変な非退化対称双線型形式とすると,かつだから(系1.8),はこの非退化対称双線型形式に関するの直交空間となる.
定義2.3 (Weylチャンバー)
を有限次元実ベクトル空間上のルート系とする.の開集合の各連結成分を,のWeylチャンバー(Weyl chamber)という.
を有限次元実ベクトル空間上のルート系とすると,の自己同型は,Weylチャンバーをを有限次元実ベクトル空間上のルート系とすると,の自己同型は,Weylチャンバーをも),のWeylチャンバー全体のなす集合に作用する.
補題2.4
実内積空間の元の族が,次の条件を満たすとする.
-
(i)
あるが存在して,任意のに対してとなる.
-
(ii)
任意の異なる二つの元, に対して,である.
このとき,は線型独立である.
証明
, を互いに交わらない有限部分集合とし,各に対して,各に対してを任意にとる.もしならば,これをと置くと,条件(ii)より
だから,
である.条件(i)のと上式の各辺との内積をとれば,およびを得る.よって,は線型独立である.∎
定理2.5
を有限次元実ベクトル空間上のルート系とする.
-
(1)
の基底に対して,
はのWeylチャンバーである.
-
(2)
のWeylチャンバーに対して,
と定めると,はの基底である.
-
(3)
(1)と(2)の対応は互いに他の逆であり,の基底とWeylチャンバーとの間の一対一対応を与える.さらに,この対応は,自己同型群の作用を保つ.
証明
上の不変な内積を一つ固定する(系1.8).とに対して,だから,とは同符号である.
(1) 内積を用いると,
と書ける.はの基底だから,は連結である.の元とに関する正ルートとの内積は正であり,に関する負ルートとの内積は負だから,は
に含まれる.さらに,がと同じ連結成分に含まれるならば,任意のに対してと()は同符号だから,である.よって,はの一つの連結成分,すなわちWeylチャンバーである.
(2) の符号は各Weylチャンバー上で一定だから,を一つ固定すると
と書ける.とすると,それがに属していない限り(,, , )と分解でき,各に対しても同じことがいえる.各に対してだから,この操作は有限回で終了する.よって,に属するルートは,の元の以上の整数を係数とする線型結合で書ける.だから,残りのルートは,の元の以下の整数を係数とする線型結合で書ける.
前段の結果から,がを張ることもわかる.あとは,が線型独立であることを示せばよい.そのためには,が補題2.4の条件を満たすことをいえばよい.条件(i)は,2.1節より満たされる.条件(ii)が満たされないとすると,ある, に対してとなるが,このとき系1.26よりである.したがって,またはがに属することになるが,いずれにしても, に矛盾する.よって,背理法より,条件(ii)は満たされる.
(3) をの基底とすると,容易にわかるようにだが,と,とはともにの分割を与えるから,である.したがって,はの元のうちの重複を許す二つ以上の元の和としては書けないもの全体だが,正ルートの定義よりこれはに等しい.また,をのWeylチャンバーとすると,容易にわかるようにであり,とはともにの連結成分だからである.よって,(1)と(2)の対応は互いに他の逆であり,の基底とWeylチャンバーとの間の一対一対応を与える.
系2.6
任意のルート系は,基底をもつ.
を有限次元ベクトル空間上のルート系とし,をその基底を有限次元ベクトル空間上のルート系とし,をその基底を有限次元ベクトル空間上のルート系とし,をその基底を基底とする格子に等しい.これを,ルート系のルート格子(root lattice)という.
2.2 基底とWeyl群
補題2.7
をルート系とし,をその基底とする.単純ルートに関する鏡映は,上の置換を引き起こす.
証明
とする.は明らかである.(各は以上の整数)と表すと,あるが存在してとなる.ここで,
だから,をの元の線型結合で表すときのの係数もである.これより,である.よって,は,上の置換を引き起こす.∎
系2.8
をルート系とし,をその基底とする.に関する割れない正ルート全体の和の倍をと置くと,任意の単純ルートに対して,である.
証明
補題2.9
をルート系とし,をその基底とする.(,, , )とし,は個未満のの元の合成としては書けないとする.このとき,はに関する負ルートである.
証明
定理2.10
を有限次元ベクトル空間上のルート系とする.
-
(1)
Weyl群は,の基底全体のなす集合に自由かつ推移的に作用する.
-
(2)
をの基底とすると,はの割れないルート全体に等しい.
-
(3)
をの基底とすると,Weyl群はによって生成される.
証明
一般性を失わず,であり,に不変な内積が定まっていると仮定する(命題1.7,系1.8).の基底を一つ固定し(系2.6より存在する),が生成するの部分群をと置く.まず(1), (2)でをに置き換えた主張(1′), (2′)を示し,次に(2′)を用いて(3)を示す.
(1′) のの基底全体のなす集合への作用が推移的であることを示す.定理2.5より,ののWeylチャンバー全体の集合への作用が推移的であることを示せばよい.に関する正ルートであって割れないもの全体の和の倍を,と置く.点を任意にとり,これに対して,をが最大となるようにとる.すると,任意のに対して,
(最後の等号で系2.8を用いた)よりであり,またよりだから,である.したがって,であり,これはを含むWeylチャンバーがの作用でに移ることを意味する.よって,ののWeylチャンバー全体のなす集合への作用は推移的である.
次に,のの基底全体のなす集合への作用が自由であることを示す.前段で推移性を示したから,としてを示せば十分である.(,, , )とが最小になる方法で表示すると,補題2.9よりは負ルートだから,特にである.これで,主張が示された.
(2′) (1′)より,のすべての基底の合併がの割れないルート全体に等しいことを示せばよい.の基底の元がすべて割れないルートであることは,基底の定義から明らかである.任意の割れないルートがのある基底に含まれることを示す.点を
となるようにとり,さらにを十分小さくとって
が成り立つようにする.すると,だから,を含むWeylチャンバーがとれる.以下,定理2.5の記号, を用いる.だから,である.また,(,, , )とすると,だが,任意のに対してだから,, , でなければならない.さらに,は割れないルートだから,かつでなければならない.よって,である.これで,主張が示された.
(3) 任意の割れないルートに対して,(2′)よりあるが存在してとなり,このとき,である(補題1.12).よって,である. ∎
系2.11
とをそれぞれ有限次元ベクトル空間と上の被約ルート系とし,とをそれぞれ, の基底とする.は全単射であり,任意の, に対してを満たすとする.このとき,はルート系からへの同型に一意に拡張される.
証明
命題2.12
をルート系とし,をその基底とする.次の条件は同値である.
-
(a)
は既約である.
-
(b)
であり,を互いに直交する二つの空でない部分に分割することはできない.
証明
明らかに,ととは同値である.以下,これ以外の場合を考える.
対偶を示す.が可約であるとして,ルート系の直和分解であって, が空でないものをとる.に対してと置くと,これらは空でなく,とは直交する(命題1.17)からとも直交する.これで,主張の対偶が示された.
2.3 単純ルートの和
命題2.13
をルート系とし,をその基底とする.正ルートの列, , が,を満たすとする.このとき,上の置換であって,任意のに対してを満たすものが存在する.
証明
に関する帰納法で示す.の場合は明らかである.とし,に対する主張は正しいとする.と置くと,だから,となるが存在する.このについて,系1.26 (1)より,となる.そこで,を除く個のルートに帰納法の仮定を適用すれば,の場合の主張が示される.これで,帰納法が完成した.∎
系2.14
ルート系から可換群への写像が,次の条件を満たすとする.
-
(i)
任意のに対して,である.
-
(ii)
任意の, , に対して,である.
このとき,はルート格子からへの群準同型に一意に拡張される.
証明
をの基底とすると,ルート格子はを基底とする格子だから,上でに一致する群準同型が一意に存在する.これがの拡張であることを示そう.条件(i)より,正ルートに対してを示せばよい.命題2.13より,単純ルートの列, , を,であり,かつ任意のに対してであるようにとれる.よって,条件(ii)より
である.これで,主張が示された.∎
命題2.15
をルート系とし,をその基底とする.はルート格子の元であり,一つのルートの整数倍としては書けないとする.このとき,あるが存在して,をの元の線型結合として書くときの係数に,正の整数と負の整数がともに現れる.
2.4 双対ルート系の基底
補題2.16
有限次元実ベクトル空間の基底とが
を満たすならば,全単射が存在して,各はの正のスカラー倍となる.
証明
からへの基底変換行列をと置き,からへの基底変換行列をと置く.仮定より,各成分とは以上である.いま,の一つの成分が正であるとする.とは互いに他の逆行列だから,任意のに対してだが,そのためにはでなければならない.すなわち,の行ベクトルは,成分を除いてである.一方で,は正則だから,この性質を満たすの行ベクトルはたかだか一つである.以上より,任意のに対して,を満たすはたかだか一つである.このこととの正則性より,全単射が存在して,
となる.すなわち,主張が成り立つ.∎
命題2.17
をルート系とし,をその基底とする.各に対して
と定めると,は双対ルート系の基底である.特に,が被約ならば,は双対ルート系の基底である.
証明
一般性を失わず,であり,に不変な内積が定まっていると仮定する(命題1.7,系1.8).内積が定める線型同型によって,とを同一視する.すると,各ルートに対して,だから(命題1.13 (4)),の鏡映面との鏡映面は等しい.したがって,の基底であって,(定理2.5の記号を用いた)を満たすものが存在する.の内積に関する, の双対基底をそれぞれ, と書くと,はを意味するから,補題2.16より,はの各元を適当に正のスカラー倍して得られる集合である.したがって,とについても同様である.ところが,各ルートに対して,のルートのうちの正のスカラー倍として書けるものは,,(のとき),(のとき)のみである(系1.25).このうち,の割れないルートであるものは,ならばのみであり,ならばのみである.よって,であり,これは双対ルート系の基底である.
が被約ならば,任意のに対してだから,は双対ルート系の基底である.∎
2.5 正ルート全体のなす集合の特徴付け
命題2.18
をルート系とする.部分集合に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
の基底であって,を満たすものが存在する.
-
(b)
, かつならばであり,とはの分割を与える.
さらに,これらの条件の下で,条件(a)の基底は一意に定まり,
によって与えられる.
証明
基底の定義から明らかである.
基底を,が最大となるようにとる.がに属さないと仮定すると,はに属する.次に,を任意にとる.は割れないルートだからであり,またとすると, よりとなって仮定に反するから,である(系1.25).したがって,補題2.7よりだから,である.以上より,となるが,これはのとり方に反する.よって,背理法より,である.
よりだが,と,とはともにの分割を与えるから,が成り立つ.これで,主張が示された.
最後の主張 基底の定義から明らかである. ∎
加法群上の半順序が平行移動不変であるとは,任意の, , に対して,ならばであることをいう.容易に確かめられるように,平行移動不変な半順序について,, ならばであり,また,ととは同値である.
系2.19
を有限次元ベクトル空間上のルート系とする.を上の平行移動不変な全順序とすると,の基底であって,を満たすものが一意に存在する.
証明
上記の注意と命題2.18から従う.∎