4.1 Cartan行列とDynkin図形
定義4.1 (Cartan行列)
をルート系とし,をその基底とする.行列を,のCartan行列(Cartan matrix)という.
命題4.2
ルート系とその基底に対して,のCartan行列は正則である.
証明
不変な非退化対称双線型形式を固定すると,, に対してである(系1.8).がの基底であることより,行列は正則だから,Cartan行列も正則である.∎
Cartan行列を視覚的に表すものとして,Dynkin図形を導入する.そのための準備として,次の用語を定義する.
定義4.3 (不等号付き多重グラフ)
不等号付き多重グラフ44 4 「不等号付き多重グラフ」は,本稿だけの用語である. とは,次の条件を満たす組をいう.
-
(i)
は多重グラフである.
-
(ii)
は,において重以上の辺で結ばれている2頂点の集合に対して,とのいずれかを対応させる写像である.
不等号付き多重グラフは,多重グラフを表す図において,重以上の辺に,によって選ばれた頂点のほうが「大きい」とする不等号を書き込むことで表される.たとえば,頂点とがにおいて重辺で結ばれており,であるとき,不等号付き多重グラフにおける頂点とは,次のように表される.
をルート系とし,をその基底とする.異なる二つの単純ルート, に対して,は, , , , , のいずれかだから(定理1.23,命題2.2),は, , , のいずれかである.また,定理1.23と注意1.24 (1)より,
| とが直交しない | |||
| とが直交せず,異なる長さをもつ |
である(「異なる長さをもつ」の意味については,注意1.22を参照のこと).以上を踏まえて,次のように定義する.
定義4.4 (Dynkin図形)
ルート系とその基底に対して,次のように定まる不等号付きグラフを,のDynkin図形(Dynkin diagram)という(表3も参照のこと).
-
(i)
は,を頂点集合とし,異なる二つの単純ルート, を本の辺で結んで得られる多重グラフである.
-
(ii)
は,において重以上の辺で結ばれている2頂点の集合に対して,とのうち長いほうを対応させる写像である.
| 頂点(左)と(右)を結ぶ辺と不等号 | ||
命題4.5
ルート系とその基底に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
は既約である.
-
(b)
のDynkin図形は連結である.
証明
命題2.12のいいかえにすぎない.∎
4.2 Dynkin図形の分類
は有限次元実内積空間上のルート系であり,その内積は不変であるとする.をの基底とすると,
-
•
はの基底だから,特に線型独立である.
-
•
任意の, に対して,である(命題2.2).
- •
これを踏まえて,次のように定義する.
定義4.6 (許容可能なベクトルの集合)
を有限次元実内積空間とする.単位ベクトルの集合が許容可能(admissible)であるとは,次の条件を満たすことをいう.
-
(i)
は線型独立である.
-
(ii)
任意の異なる二つの元, に対して,かつである(あるいは同値だが,である).
定義4.7 (許容可能な多重グラフ)
許容可能な単位ベクトルの集合に対して,多重グラフを,を頂点集合とし,異なる2頂点, が本の辺で結ばれるものとして定める.多重グラフは,ある許容可能な単位ベクトルの集合に対するに同型であるとき,許容可能(admissible)であるという.
注意4.8
以下,許容可能な連結多重グラフを分類する.
補題4.9
許容可能な多重グラフは,(長さ以上の)サイクルを含まない.
証明
を許容可能な単位ベクトルの集合とし,においてがサイクルをなすとする., を異なる2頂点とするとだが,に属する頂点どうしを結ぶ辺は少なくとも本あるから,このうち少なくとも組の(順序を考慮するため倍になる)に対してである.したがって,
であり,を得るが,これはが線型独立であることに反する.よって,背理法より,はサイクルを含まない.∎
補題4.10
許容可能な多重グラフにおいて,各頂点の次数(その頂点から伸びている辺の本数)は以下である.
証明
を許容可能な単位ベクトルの集合とする.とし,においてと辺で結ばれている頂点全体の集合をと置く.補題4.9より,に属するどの2頂点も辺で結ばれていないから,は正規直交系をなす.が線型独立であることよりだから,
である.頂点とは本の辺で結ばれているから,上式は,頂点の次数が以下であることを示す.∎
補題4.11
を許容可能な多重グラフとする., , ()はの異なる頂点の列であり,各に対して,はおよびとそれぞれちょうど本の辺で結ばれ,それ以外の頂点とは辺で結ばれていないとする.このとき,, , を一つの頂点に潰して得られる多重グラフは,また許容可能である.
証明
は,許容可能な単位ベクトルの集合に対応する多重グラフであるとしてよい.,と置く(は線型独立だから,である).すると,
-
•
は線型独立だから,も線型独立である.
-
•
である.
-
•
任意のについて,仮定より()であり,補題4.9よりとのうち少なくとも一方はである.したがって,はまたはまたはに等しく,いずれにしてもかつである.
よって,は許容可能な単位ベクトルの集合であり,対応する多重グラフはに同型である.よって,は許容可能である.∎
定理4.12 (許容可能な連結多重グラフの分類)
許容可能な連結多重グラフは,表4に挙げたもののいずれかただ一つに同型である.
| 型(は頂点数) | 多重グラフ |
| () | |
| () | |
| () | |
証明
を許容可能な単位ベクトルの集合とし,と置く.は連結であるとする.
(I) が重辺をもつ場合,補題4.10より,はに同型である.
定理4.13 (連結Dynkin図形の分類)
許容可能な連結多重グラフは,表5に挙げたもののいずれかただ一つに同型である.
| 型(は頂点数) | Dynkin図形 |
| () | |
| () | |
| () | |
| () | |
証明
表5に従って, (), (), (), (), , , , , 型のDynkin図形を定める.便宜上,型を型や型,型を型,型の二つの直和を型,型を型ともいう. (), (), (), (), , , , , 型のルート系とは,被約なルート系であって,対応する型のDynkin図形をもつものをいう.これらは,型のルート系を除いては,既約である.
4.3 被約な既約ルート系の構成と分類
本小節では,定理4.13で示した連結Dynkin図形に対応する被約な既約ルート系を,具体的に構成する.以下,の標準基底をと書く.構成は,あるいはその部分ベクトル空間上で行い,標準的な対称双線型形式がWeyl群に関して不変となるようにする.
型()の既約ルート系
の部分集合
は,個のルートからなる上のルート系である.は,型の既約ルート系である.実際,
はの基底であり,対応するDynkin図形は次のとおりである.
型()の既約ルート系
の部分集合
は,個のルートからなる上のルート系である.は,型の既約ルート系である.実際,
はの基底であり,対応するDynkin図形は次のとおりである.
型()の既約ルート系
の部分集合
は,個のルートからなる上のルート系である.は,型の既約ルート系である.実際,
はの基底であり,対応するDynkin図形は次のとおりである.
型()の(既約)ルート系
の部分集合
は,個のルートからなる上のルート系である.は,型の(ならば既約)ルート系である.実際,
はの基底であり,対応するDynkin図形は次のとおりである.
型の既約ルート系
の部分集合
は,個のルートからなる上のルート系である.は,型の既約ルート系である.実際,
はの基底であり,対応するDynkin図形は次のとおりである.
型の既約ルート系
の部分集合
は,個のルートからなる上のルート系である.は,型の既約ルート系である.実際,
はの基底であり,対応するDynkin図形は次のとおりである.
型の既約ルート系
の部分集合
は,個のルートからなる上のルート系である.は,型の既約ルート系である.実際,
はの基底であり,対応するDynkin図形は次のとおりである.
型の既約ルート系
の部分集合
は,個のルートからなる上のルート系である.は,型の既約ルート系である.実際,
はの基底であり,対応するDynkin図形は次のとおりである.
型の既約ルート系
の部分集合
は,個のルートからなる上のルート系である.は,型の既約ルート系である.実際,
はの基底であり,対応するDynkin図形は次のとおりである.
4.4 被約でない既約ルート系の構成と分類
を被約でない既約ルート系とすると,定理1.36より,次が成り立つ.
-
(1)
の各ルートの最短ルートに対する長さの比は,, , のいずれかである.以下,最短ルートに対する長さの比が, , であるルート全体のなす集合を,それぞれ, , と書く.
-
(2)
である.
-
(3)
に属する異なる二つのルートは,直交する.
-
(4)
とは,上の被約な既約ルート系である.
長さの比の条件と(3), (4)より,は,型()の既約ルート系でなければならない.したがって,は,線型同型を除いて,の部分集合
と同一視できる.
逆に,を上記のの部分集合と定めると,容易に確かめられるように,これは上の個のルートからなる被約でないルート系である.さらに,割れないルートの全体
は型の既約ルート系だから,も既約である(命題1.33 (1)).なお,(注意1.34)は
となり,これは型の既約ルート系である.
以上より,各整数に対して,階数の被約でない既約ルート系が同型を除いて一意に存在する.これを,型のルート系という.