2.1 連結可換Lie群
命題2.1
を連結可換Lie群とし,と置く.
-
(1)
はの普遍被覆Lie群であり,この被覆準同型の核はの離散部分群である.
-
(2)
がコンパクトである(すなわち,トーラス(定義2.7)である)とする.このとき,は上の格子である.
証明
(1) 指数写像は,点において局所微分同相であり,が可換であることより準同型である.したがって,はLie群の被覆準同型であり,その核はの離散部分群である.さらに,は単連結でありは連結だから,はの普遍被覆Lie群である.
(2) (1)よりはの離散部分群であり,はコンパクトだから,は上の格子である. ∎
2.2 Cartan部分群
命題2.2
をコンパクトなLie代数をもつLie群,をその連結部分Lie群とし,,と置く.次の条件は同値である.
-
(a)
はの連結閉可換部分Lie群の中で極大である.
-
(b)
はの連結可換部分Lie群の中で極大である.
-
(c)
はの極大可換部分空間である.
-
(d)
はのCartan部分代数である.
証明
の連結可換部分Lie群の閉包はまた連結可換部分Lie群だから(閉部分群定理を用いた),が連結可換部分Lie群の中で極大ならばは閉である.よって,がの連結閉可換部分Lie群の中で極大であることと,連結可換部分Lie群の中で極大であることとは同値である.
の連結可換部分Lie群との可換部分空間とは,Lie代数をとる操作によって一対一に対応し,この対応は包含関係を保つ.よって,がの連結可換部分Lie群の中で極大であることと,がの極大可換部分空間であることとは同値である.
系1.6ですでに示した. ∎
定義2.3 (Cartan部分群)
コンパクトなLie代数をもつLie群の連結Cartan部分群(connected Cartan subgroup)とは,連結部分Lie群であって命題2.2の同値な条件を満たすものをいう.が連結である場合には,その連結Cartan部分群を単にCartan部分群(Cartan subgroup)という.
命題2.4 (Cartan部分群の存在と共役性)
コンパクトなLie代数をもつLie群は,共役を除いて一意な連結Cartan部分群をもつ.
命題2.5
をコンパクトなLie代数をもつLie群とする.の任意の連結可換部分Lie群に対して,それを含むの連結Cartan部分群が存在する.
証明
はの可換部分Lie代数だから,それを含む極大可換部分空間がとれる.の連結部分Lie群であってをLie代数にもつものをと置くと,はのCartan部分群であり(命題2.2の条件(c)),を含む.∎
命題2.6
をコンパクトなLie代数をもつLie群とし,をの連結Cartan部分群とする.このとき,である.
証明
を任意にとる.とはともにの連結Cartan部分群だから,連結Cartan部分群の共役性(命題2.4)より,あるが存在してとなる.このとき,だから,である.よって,であり,逆元をとる写像を考えれば,も得られる.∎
2.3 極大トーラスの性質
定義2.7 (トーラス)
コンパクト連結可換Lie群を,トーラス(torus)という.
定義2.8 (極大トーラス)
Lie群のトーラス(torus)とは,その部分Lie群であってトーラスであるものをいう.のトーラスの中で極大なものを,の極大トーラス(maximal torus)という.
コンパクトLie群のトーラスとは,その連結閉可換部分Lie群のことにほかならない.したがって,コンパクトLie群の極大トーラスとは,その連結Cartan部分群のことにほかならない(命題2.2の条件(a)).
補題2.9
をコンパクトLie群とし,と置く.このとき,の任意の元は,半単純である.
証明
はコンパクトだから,上の不変な内積がとれる.の任意の元は,この内積に関する直交変換だから,半単純である.∎
補題2.10
をコンパクトLie群とする.写像を,と定める.このとき,任意の点に対して,はの近傍である.
証明
と置く.の点における微分は
で与えられるから,
である.ここで,は半単純だから(補題2.9),はの固有空間に直和分解される.の複素化は以外の固有値の固有空間の直和に等しく,の複素化は固有値の固有空間に等しいから,これらの和は全体となる.したがって,である.よって,だから,はの近傍である.∎
定理2.11
をコンパクト連結Lie群とし,をその極大トーラスとする.このとき,の任意の元は,のある元に共役である.
証明
写像を,と定める.とはコンパクトだから,はコンパクトであり,したがって,において閉である.あとは,がにおいて開であることを示せば,であることがわかる.はの共役による作用に関して安定だから,がにおいて開であることを示すためには,が任意の点の近傍であることを示せば十分である.このことを,の次元に関する帰納法で示す.と置く.
まず,である場合を考える.任意のはのある極大可換部分空間に含まれ,これをLie代数にもつの連結部分Lie群をと書くと,である.はの極大トーラスだから,あるが存在してとなる(命題2.4).このについて,よりが成り立つ.よって,だから,はの近傍である.
次に,である場合を考える.の主連結成分は,コンパクト連結Lie群である.であり,は連結だから,である.はの極大トーラスだから,の極大トーラスでもある.また,よりだから,である.したがって,帰納法の仮定より
だから,
を得る.一方で,補題2.10より,(であることを用いた)はの近傍である.よって,はの近傍である.これで,帰納法が完成した.∎
系2.12
コンパクト連結Lie群の指数写像は,全射である.
系2.13
コンパクト連結Lie群のすべての極大トーラスの交叉は,中心に等しい.
証明
系2.14
をコンパクト連結Lie群とし,をその連結可換部分Lie群とする.このとき,中心化子は,の極大トーラスであってを含むもの全体の合併に等しい.
証明
系2.15
をコンパクト連結Lie群とする.
-
(1)
の連結可換部分Lie群に対して,中心化子は連結である.
-
(2)
の極大トーラスに対して,中心化子はに等しい.特に,はにおいて極大可換である.
証明
系2.14から従う.∎
系2.16
をコンパクト連結Lie群とし,と置く.をの部分集合とし,の任意の二つの元は可換であるとする.このとき,は連結である.
証明
仮定より,はの可換部分Lie代数である.これをLie代数にもつの連結部分Lie群をと置くと,だから,主張は系2.15 (1)から従う.∎
本小節で述べたコンパクト連結Lie群に関する結果は,コンパクトなLie代数をもつ連結Lie群のCartan部分群にまで拡張できる.3.2節を参照のこと.
2.4 ルート格子と整ベクトルのなす加法群
をコンパクトLie代数,をそのCartan部分代数とし,,(これは自然にと同一視される)と置く.本稿の以下の部分では,次の記号を用いる.
-
•
で,ルート格子を表す.
-
•
で,に関する整ベクトルのうちに属するもの全体のなす加法群を表す.すなわち,
である.
-
•
で,ルート格子を表す.
-
•
で,に関する整ベクトルのうちに属するもの全体のなす加法群を表す.すなわち,
である.
補題2.17
とを有限次元実ベクトル空間とし,を非退化双線型形式とする.をの閉部分群とし,
と置くと,
が成り立つ.
証明
有限次元実ベクトル空間の閉部分群の分類定理より,の基底と, ()が存在して,と書ける.非退化双線型形式に関するの双対基底をと書くと,
である.示すべき等式の右辺をと置くと,
となり,主張が成り立つ.∎
命題2.18
をコンパクトLie代数,をそのCartan部分代数とし,,と置く.とに対して,と定める.このとき,
である.
証明
とに関する等式は,これらの定義からただちに従う.また,これらの等式と補題2.17から,それぞれとに関する等式が従う.∎
2.5 加法群
定義2.19
を連結可換Lie群とし,と置く.とを,
と定める.
注意2.20
を連結可換Lie群とし,と置く.
-
(1)
上の定数関数はの持ち上げである.また,, とし,, (あるいは)がそれぞれ, の持ち上げであるとすると,はの持ち上げであり,はの持ち上げである.したがって,とは,加法に関しての部分群をなす.
-
(2)
だから,と置くと,である.
命題2.21
を連結可換Lie群とし,,と置く.とに対して,と定める.このとき,
である.
証明
系2.22
をトーラスとし,,と置く.このとき,であり,これらは上の格子である.
補題2.23
をコンパクトLie代数とし,をそのCartan部分代数とする.このとき,各ルートに対して,次の条件を満たす, , が存在する.
-
(i)
, かつである.
-
(ii)
, , は線型独立である.
-
(iii)
,,である.
さらに,, , がこれらの条件を満たすとき,Lie代数の単射準同型であって
を満たすものが,一意に存在する.
証明
一般性を失わず,が半単純であると仮定する.系1.24より,はに対するあるChevalley系に伴うコンパクト実形である.そこで,
と置くと,, かつであり,これらは線型独立であり,
を満たす.一方で,の基底
も同じ交換関係を満たす.よって,主張の条件を満たすLie代数の単射準同型が一意に存在する.∎
命題2.24
をコンパクトなLie代数をもつ連結Lie群,をそのCartan部分群とし,,,と置く.
-
(1)
である.
-
(2)
である.
2.6 Weyl群
定義2.25 (Weyl群)
注意2.26
をコンパクト連結Lie群とし,をその極大トーラスとし,,と置く.はの閉部分群だからコンパクトであり,そのLie代数はである.したがって,Weyl群は有限である.
()に対してLie群の自己同型が代表元のとり方によらずに定まり,これによって,Weyl群のLie群への作用が定まる.さらに,この作用の微分とその反傾表現を考えることにより,Weyl群のや上の連続表現が定まる.
命題2.27
をコンパクト連結Lie群とし,をその極大トーラスとする.Weyl群のへの作用に関する軌道空間と,の共役類空間(の自身への共役による作用に関する軌道空間)を考える.このとき,からへの包含写像は,からへの同相写像を誘導する.
証明
二つの点, がの作用で移り合うならば,あるが存在してとなるから,において共役である.したがって,からへの包含写像は,連続写像を誘導する.の任意の元はのある元に共役だから(定理2.11),は全射である.の単射性を示す.そのためには,とがを満たすとして,あるが存在してとなることを示せばよい.の主連結成分はコンパクト連結Lie群であり,とをともに含む.とは,の極大トーラスだから,の極大トーラスでもある.したがって,極大トーラスの共役性(命題2.4)より,あるが存在してを満たす.よって,と置けば,かつとなる.
とはともに,コンパクトHausdorff群のコンパクトHausdorff空間への(したがって,固有な)連続作用に関する軌道空間だから,コンパクトHausdorff空間である.前段で示したように,はからへの連続全単射だから,同相である.∎
補題2.28
を群とし,をその部分群とする.集合であって,のへの作用が自由であり,のへの作用が推移的であるものが存在するとする.このとき,である.
証明
を任意にとり,1点を固定する.のへの作用が推移的であることより,あるが存在してを満たす.のへの作用は自由だから,を得る.よって,である.∎
補題2.29
をコンパクト連結Lie群,をその極大トーラスとし,,と置く.このとき,任意のに対して,あるが存在して,を満たす.
証明
任意のルートに対して,ルート鏡映があるを用いてと表せることを示せばよい., , を補題2.23のようにとり,とする.任意のに対して,より
である.また,とより
である.だから,上式より,はを安定にし,したがって,も安定にする.これより,である.さらに,のときは,
となるから,が成り立つ.よって,と置けばよい.∎
補題2.30
をコンパクト連結Lie群,をその極大トーラスとし,,と置く.をルート系の基底とする.このとき,がを満たすならば,である.
証明
定理2.31
をコンパクト連結Lie群,をその極大トーラスとし,,と置く.からへの写像は,からへの群同型を与える.