6.1 単純Lie代数と半単純Lie代数
定義6.1 (単純Lie代数)
有限次元Lie代数が単純(simple)であるとは,が可換でなく,がと以外のイデアルをもたないことをいう.
定義6.2 (半単純Lie代数)
有限次元Lie代数が半単純(semisimple)であるとは,が以外の可解イデアルをもたない(あるいは同値だが,である)ことをいう.
命題6.3
有限次元Lie代数が半単純であるための必要十分条件は,が以外の可換イデアルをもたないことである.
証明
が可解イデアルをもつとする.を満たす最大のをとると,はのでないイデアルであり,だからは可換である.よって,が半単純である(すなわち,以外の可解イデアルをもたない)ことと,以外の可換イデアルをもたないこととは同値である.∎
系6.4
単純Lie代数は,半単純である.
証明
命題6.3から明らかである.∎
命題6.5
半単純Lie代数について,であり,の随伴表現は忠実である.
証明
はの可換イデアルだから,である.の随伴表現の核はに等しいから,これは,の随伴表現が忠実であることを意味する.∎
命題6.6
有限次元Lie代数の根基は,のイデアルであってが半単純となるものの中で最小のものである.
証明
注意6.7
命題6.8
を有限次元Lie代数の有限族とし,と置く.すべてのが半単純であることと,が半単純であることとは同値である.
証明
であること(命題5.8)から従う.∎
命題6.9
を標数の可換体上の有限次元Lie代数とし,をそのイデアルとする.が半単純ならば,も半単純である.
証明
であること(系5.27)から従う.∎
6.2 半単純性に関するCartanの判定法
定理6.10 (半単純性に関するCartanの判定法)
標数の可換体上の有限次元Lie代数に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
は半単純である.
-
(b)
であり,の任意の忠実な有限次元表現のトレース形式は非退化である.
-
(c)
のKilling形式は非退化である.
さらに,これらの条件の下で,が成り立つ.
証明
,最後の主張 が半単純であるとする.まず,であることは,命題6.5ですでに示した.次に,をの忠実な有限次元表現とし,そのトレース形式に関するの直交空間をと置く.すると,はのイデアルである(系3.24 (1)).さらに,だから,可解性に関するCartanの判定法(定理5.23)より,は可解である.したがって,が半単純であることより,を得る.よって,が成り立ち,は非退化である.
ならばの随伴表現は忠実だから,主張は明らかである.
のKilling形式をと書く.をの可換イデアルとすると,だから,である.よって,が非退化ならば,は以外の可換イデアルをもたず,これはが半単純であることを意味する(命題6.3). ∎
6.3 半単純Lie代数の分解
命題6.12
を標数の可換体上の有限次元Lie代数,をその半単純イデアルとし,のKilling形式に関するの直交空間をと書く.このとき,ものイデアルであり,Lie代数としてが成り立つ.
証明
定理6.13
標数の可換体上の有限次元Lie代数に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
は半単純である.
-
(b)
は,有限個の単純Lie代数の直和Lie代数として書ける.
さらに,が単純Lie代数の有限族の直和Lie代数であるとき,のイデアルは,の部分族の直和で尽くされる.
証明
命題6.12より,の随伴表現は完全可約だから,既約分解がとれる(命題3.18).このとき,各はのでないイデアルの中で極小なものであり,Lie代数としてが成り立つ.各が単純であることを示す.は以外の可換イデアルをもたないから,は可換ではない.また,をのイデアルとすると,はのイデアルでもあるから,の極小性より,はまたはである.よって,は単純である.
最後の主張 が単純Lie代数の有限族の直和Lie代数であるとして,のイデアルを任意にとる.各に対して,は単純Lie代数のイデアルだから,はまたはである.前者の場合,である.後者の場合,であり,これは,からへの射影によるの像がに含まれることを意味する.ところが,は単純だからであり,このとき,となる.以上より,と置けば,が成り立つ. ∎
系6.14
を標数の可換体上の有限次元Lie代数とし,をそのイデアルとする.このとき,次の条件は同値である.
-
(a)
は半単純である.
-
(b)
とはともに半単純である.
証明
注意6.15
半単純Lie代数の部分Lie代数は,半単純であるとは限らない.たとえば,次元Lie代数は可換だから,半単純ではない.
系6.16
を標数の可換体上の有限次元Lie代数とし,をそのイデアルとする.このとき,次の条件は同値である.
-
(a)
は半単純である.
-
(b)
である.
証明
系6.17
, を標数の可換体上の有限次元Lie代数とし,を全射準同型とする.このとき,である.
証明
命題6.18
標数の可換体上の半単純Lie代数の随伴表現は,からへの同型を与える.特に,上の導分は,すべて内部導分である.
6.4 Weylの完全可約性定理
補題6.19
Lie代数に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
の任意の有限次元表現は完全可約である.
-
(b)
をの有限次元表現,をの余次元の部分ベクトル空間とし,これらがを満たすとすると,はにおいて安定な補空間をもつ.
証明
明らかである.
(b)が成り立つとする.の有限次元表現を任意にとり,をの安定な部分ベクトル空間として,のにおける安定な補空間が存在することを示す.の上の表現を考え,の部分ベクトル空間, を
と定める.は安定であり,はの余次元の部分ベクトル空間であり,が満たされるから,仮定より,はにおいて安定な補空間をもつ.であることよりはでないスカラー倍だから,必要ならばを適当にスカラー倍することで,であるとしてよい.また,であり,一方でよりだから,である.したがって,はの上への射影だから,はのにおける補空間である.さらに,任意のに対して,かつであることよりだから,が成り立つ.したがって,は安定である.これで,主張が示された. ∎
定理6.20 (Weylの完全可約性定理)
標数の可換体上の半単純Lie代数について,その任意の有限次元表現は,完全可約である.
証明
補題6.19より,をの有限次元表現,をの余次元の部分ベクトル空間とし,これらがを満たすとして,がにおいて安定な補空間をもつことを示せばよい.以下,の上の部分表現を,と書く.
である場合,任意の, に対してよりだから,である(定理6.10).よって,は明らかに完全可約である.以下,である場合を考える.
まず,が既約である場合を考える.のトレース形式をと書く.はの半単純イデアルだから(系6.14),のKilling形式に関するの直交空間をと置くと,はにおけるの補イデアルとなる(命題6.12).そこで,の上の表現を考えると,これは忠実だから,そのトレース形式は非退化である(定理6.10).したがって,Casimir元が定まり,はの自己同型となる(命題3.29 (3).よりであり,係数体の標数がであることに注意する).さらに,仮定より,が成り立つ.以上より,はのにおける安定な補空間である.
次に,一般の場合を,の次元に関する帰納法で示す.ならばであり,主張は明らかである.であるとし,次元がより小さい場合には主張が正しいとする.このとき,だから,のでない安定な部分ベクトル空間の中で極小なものがとれる.の上の商表現をと書くと,はの余次元の部分ベクトル空間であり,これらはを満たすから,帰納法の仮定より,のにおける安定な補空間がとれる.ここで,はの安定な部分ベクトル空間であり,を余次元の部分ベクトル空間として含み,を満たす.であり,の極小性よりの上の部分表現は既約だから,前段の結果より,はにおける安定な補空間をもつ.この補空間は,のにおける補空間でもある.これで,帰納法が完成した.∎
6.5 簡約Lie代数
定義6.22 (簡約Lie代数)
有限次元Lie代数が簡約(reductive)であるとは,その随伴表現が完全可約であることをいう.
定理6.23
標数の可換体上の有限次元Lie代数に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
は簡約である.
-
(b)
は半単純である.
-
(c)
は,半単純Lie代数と可換Lie代数の直和Lie代数として書ける.
-
(d)
の有限次元表現であって,非退化なトレース形式をもつものが存在する.
-
(e)
は忠実な有限次元完全可約表現をもつ.
-
(f)
である.
-
(g)
である.
-
(h)
である.
さらに,が半単純Lie代数と可換Lie代数の直和Lie代数であるとき,かつである.
証明
が簡約であるとすると,の随伴表現の既約分解がとれる(命題3.18).このとき,各はのでないイデアルの中で極小なものであり,Lie代数としてが成り立つ.各について,をのイデアルとすると,はのイデアルでもあるから,の極小性より,はまたはである.したがって,は可換または単純である.が可換ならばであり,単純ならばだから,は単純な全体の直和となる.よって,は半単純である(系6.4,命題6.8).
が半単純であるとすると,のにおける補イデアルがとれ,Lie代数としてが成り立つ(命題6.12).このとき,だから,は可換である.
が半単純Lie代数と可換Lie代数の直和Lie代数であるとする.の基底を一つ固定し,の上の表現を
によって定めると,のトレース形式は
で与えられる(ここで,はのKilling形式を表す).半単純性に関するCartanの判定法(定理6.10)より,は非退化だから,も非退化である.
の有限次元表現が非退化なトレース形式をもつとする.の組成列をとり(命題3.15),各に対して,が誘導するの上の既約表現をと書く.と置くと,はの有限次元完全可約表現である.が忠実であることを示す.とすると,各に対してである.さらに,各は安定だから,である.したがって,の任意の元は冪零だから,であり,が非退化であることよりを得る.よって,は忠実である.
であるとすると,の有限個の有限次元既約表現, , が存在して,となる.このとき,はの忠実な有限次元完全可約表現である(命題3.18).
定理5.15よりだから,ならばである.
は常に成り立つから,
である.
命題6.24
標数の可換体上の有限次元Lie代数について,が成り立つ.
証明
系6.25
, を標数の可換体上の有限次元Lie代数とし,を全射準同型とする.このとき,である.
6.6 単純性・半単純性・簡約性と係数体の変更
命題6.26
を可換体とし,をその拡大体とする.
-
(1)
の標数がであるとする.このとき,有限次元-Lie代数が半単純であることと,その係数拡大が半単純であることとは同値である.
-
(2)
はの有限次拡大体であるとする.このとき,有限次元-Lie代数が半単純であることと,その係数の制限が半単純であることとは同値である.
命題6.27
を標数の可換体とし,をその拡大体とする.
-
(1)
有限次元-Lie代数について,その係数拡大が単純ならば,は単純である.
-
(2)
はの有限次拡大体であるとする.このとき,有限次元-Lie代数が単純であることと,その係数の制限が単純であることとは同値である.
証明
注意6.28
命題6.27 (1)の逆は成り立たない.すなわち,をの拡大体とするとき,単純-Lie代数の係数拡大が単純であるとは限らない.
命題6.29
を標数の可換体とし,をその拡大体とする.
-
(1)
有限次元-Lie代数が簡約であることと,その係数拡大が簡約であることとは同値である.
-
(2)
はの有限次拡大体であるとする.このとき,有限次元-Lie代数が簡約であることと,その係数の制限が簡約であることとは同値である.
6.7 半単純Lie代数の半単純元と冪零元
定理6.30
を標数の可換体上の有限次元ベクトル空間とし,をの半単純部分Lie代数とする.任意のに対して,そのJordan分解をとすると,, である.
証明
命題6.26 (1)より,必要ならば代数閉包への係数拡大を考えることで,一般性を失わず,係数体は代数閉であると仮定する.
とし,そのJordan分解をとする.すると,はの定数項をもたない係数多項式として表せるから(補題5.21),が安定ならば,安定でもある.すなわち,ならばである.次に,部分ベクトル空間に対して,の部分Lie代数を,
と定める.すると,はの定数項をもたない係数多項式として表せるから,が安定ならば,安定でもある.また,は常に冪零だから,が安定ならば,も冪零であり,したがって特に,である.よって,ならばである.
前段の結果より,主張を示すためには,
を示せばよい.上式の右辺をと置くと,これはの部分Lie代数である.また,がの部分Lie代数であることよりであり,(定理6.10)より安定な部分ベクトル空間に対してだから,である.したがって,はの半単純イデアルだから,のにおける補イデアルがとれる(命題6.12).を示す.だから,の各元は,の上の自然表現に関して同変である.また,係数体は代数閉だから,Schurの補題(命題3.13 (2))より,の各元は,の自然表現の各既約部分表現上でスカラー倍である.一方で,の自然表現の任意の既約部分表現に対応する安定な部分ベクトル空間に対して,よりの各元のへの制限はに属する.したがって,このスカラー倍はである.Weylの完全可約性定理(定理6.20)より,の自然表現は完全可約だから,上記のことと合わせて,を得る.これで,主張が示された.∎
系6.31
を標数の可換体上の有限次元ベクトル空間とし,をの半単純部分Lie代数とする.
-
(1)
上の線型写像が半単純であることと,上の線型写像が半単純であることとは同値である.
-
(2)
上の線型写像が冪零であることと,上の線型写像が冪零であることとは同値である.
証明
命題6.32
を標数の可換体上の半単純Lie代数とする.
-
(1)
に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
の任意の有限次元表現に対して,上の線型写像は半単純である.
-
(b)
上の線型写像は半単純である.
-
(c)
の忠実な有限次元表現であって,上の線型写像が半単純であるものが存在する.
-
(a)
-
(2)
に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
の任意の有限次元表現に対して,上の線型写像は冪零である.
-
(b)
上の線型写像は冪零である.
-
(c)
の忠実な有限次元表現であって,上の線型写像が冪零であるものが存在する.
-
(a)
証明
どちらも同様だから,(1)のみを示す.
明らかである.
定義6.33 (半単純Lie代数の半単純元・冪零元)
定理6.34
を標数の可換体上の半単純Lie代数とする.任意のに対して,半単純元と冪零元であってかつを満たすものが,一意に存在する.
証明
定義6.35 (半単純Lie代数におけるJordan分解)
を標数の可換体上の半単純Lie代数とする.に対して,, を定理6.34のようにとるとき,をのJordan分解(Jordan decomposition)という.また,をの半単純成分(semisimple component)といい,をの冪零成分(nilpotent component)という.
命題6.36
とを標数の可換体上の半単純Lie代数とし,をLie代数の準同型とする.
-
(1)
は,の半単純元をの半単純元に移し,の冪零元をの冪零元に移す.
-
(2)
のJordan分解をとすると,のJordan分解はである.
-
(3)
が単射であるとする.このとき,が半単純であることとが半単純であることとは同値であり,が冪零であることとが冪零であることとは同値である.
証明
(1) をの有限次元表現とすると,はの有限次元表現である.よって,主張は,命題6.32の条件(c)による半単純元・冪零元の定義から従う.
(2) よりであり,よりである.また,, はそれぞれ半単純,冪零だから,(1)より,, はそれぞれ半単純,冪零である.よって,はのJordan分解である.
(3) の単射性と(2)より,
および
を得る. ∎
6.8 半単純Lie代数の例
命題6.37
を標数の可換体上の有限次元ベクトル空間とする.
-
(1)
は簡約である.
-
(2)
であり,これは半単純である.
証明
(1) の自然表現は,明らかに既約(したがって特に,完全可約)である.よって,定理6.23のより,は簡約である.
(2) (1)で示したようには簡約だから,定理6.23より,であり,は半単純である.一方で,容易に確かめられるようにであり,はこれのにおける補空間である.さらに,トレースの性質より,である.以上より,であり,これは半単純である. ∎
命題6.38
を標数の可換体上の有限次元ベクトル空間とする.
-
(1)
を非退化対称双線型形式とする.このとき,ならばは半単純であり,ならばは次元(したがって,可換)である.
-
(2)
を非退化交代双線型形式とする.このとき,は半単純である.
証明
を対称または交代な非退化双線型形式とし,またはをと書く.のに関する随伴をと書く(すなわち,を,任意の, に対してを満たすという性質によって特徴付けられるの元とする)と,
である.
まず,が簡約であることを示す.そのためには,の自然表現のトレース形式が非退化であることをいえばよい(定理6.23).がこのトレース形式の退化空間に含まれるとして,を任意にとる.すると,だから,,すなわちである.したがって,
だから,である.容易に確かめられるように,上の双線型形式は非退化だから,これが任意のに対して成り立つことより,を得る.よって,の自然表現のトレース形式は非退化である.
あとは,が対称かつである場合にが次元であることと,それ以外の場合にであることを示せばよい(定理6.23).
(1) が対称であるとして,に関する主張を示す.命題6.26 (1)より,必要ならば代数閉包への係数拡大を考えることで,一般性を失わず,係数体は代数閉であると仮定する.このとき,対称双線型形式の一般論より,の基底であって(はKroneckerのデルタ)を満たすものが存在する.よって,
に対して主張を示せば十分である.
, の場合,である.の場合,である.よって,これらの場合には,主張が成り立つ.
の場合を考える.を任意にとる.まず,だから,任意のに対してである.次に,任意の異なる二つの添字, に対して,はと可換だから,任意の, に対してが成り立つ.であることより,任意の異なる二つの添字, に対して,, を適当にとれば, が満たされるから,を得る.よって,である.これで,であることが示された.
(2) が交代であるとして,の中心がであることを示す.命題6.26 (1)より,必要ならば代数閉包への係数拡大を考えることで,一般性を失わず,係数体は代数閉であると仮定する.このとき,交代双線型形式の一般論より,の基底であって
を満たすものが存在する.よって,
(であり,は上の次対称行列全体のなす空間を表す)の中心がであることを示せば十分である.
を任意にとる.まず,任意のに対して,はと可換だから,特にはと可換である.これより,となるから,()と書ける.次に,はと可換だから,かつが成り立つ.同様に,がと可換であることから,であることもわかる.よって,である.これで,が示された. ∎