5.1 可解Lie代数
をLie代数とするとき,に対するを,
によって再帰的に定める.列を,の導来列(derived sequence)という.
定義5.1 (可解Lie代数)
Lie代数が可解(solvable)であるとは,あるが存在してとなることをいう.
帰納的に確かめられるように,任意のに対してだから,冪零Lie代数は可解である.
命題5.2
をの拡大体とする.
-
(1)
-Lie代数が可解であることと,その係数拡大が可解であることとは同値である.
-
(2)
-Lie代数が可解であることと,その係数の制限が可解であることとは同値である.
証明
(1) 帰納的に確かめられるように,任意のに対してだから,主張が成り立つ.
(2) 明らかである. ∎
命題5.3
-
(1)
可解Lie代数の部分Lie代数は,可解である.
-
(2)
可解Lie代数の商Lie代数は,可解である.
-
(3)
をLie代数とし,をそのイデアルとする.とが可解ならば,は可解である.
-
(4)
をLie代数の族とし,と置く.このとき,すべてのが可解であることと,が可解であることとは同値である.
-
(5)
をLie代数,をそのイデアルの有限族とし,と置く.すべてのが可解であることと,が可解であることとは同値である.
証明
(1) をLie代数とし,をその部分Lie代数とする.帰納的に確かめられるように,任意のに対してだから,が可解ならばも可解である.
(2), (3) をLie代数,をそのイデアルとし,等化準同型をと書く.帰納的に確かめられるように,任意のに対してだから,が可解ならばも可解である.一方で,が可解ならば,あるが存在してとなる.すなわち,となる.さらに,が可解ならば,あるが存在してとなるから,は冪零である.
(4) 帰納的に確かめられるように,任意のに対してだから,すべてのが可解であることとが可解であることとは同値である.
(5) が可解ならば,(1)より,すべてのは可解である.その逆を示すためには,のイデアルとが可解であるとして,も可解であることを示せばよい.からへの自然な準同型は全射だから,(2)よりは可解である.このことと(3)より,は可解である.これで,主張が示された. ∎
系5.4
有限次元Lie代数に対して,その可解イデアルの中で最大のものが存在する.
証明
のすべての可解イデアルを和をと置く.は有限次元だから,の有限個の可解イデアル, , が存在して,が成り立つ.よって,命題5.3よりは可解であり,これがの可解イデアルの中で最大のものとなる.∎
5.2 根基
定義5.5 (根基)
有限次元Lie代数の可解イデアルの中で最大のもの(系5.4より存在する)を,の根基(radical)といい,と書く.
命題5.6
, を有限次元Lie代数とし,を全射準同型とする.このとき,である.
証明
はの可解イデアルだから(命題5.3 (2)),に含まれる.∎
注意5.7
後に系6.17で示すように,標数の可換体上の有限次元Lie代数の間の全射準同型について,が成り立つ.
命題5.8
を有限次元Lie代数の有限族とし,と置く.このとき,である.
5.3 冪零根基
定義5.9 (冪零根基)
有限次元Lie代数の冪零根基(nilpotent radical)を,
と定める.
有限次元Lie代数の有限次元既約表現の核はのイデアルであり,冪零根基はその全体の交叉だから,はのイデアルである.
命題5.10
を有限次元Lie代数,をその有限次元表現とし,が生成するの両側イデアルをと書く.このとき,あるが存在して,が成り立つ.
証明
の組成列をとり(命題3.15),各に対して,が誘導するの上の既約表現をと書く.すると,冪零根基の定義より,各に対してである.すなわち,
である.各は安定だから,上式は,をに置き換えても正しい.よって,が成り立つ.∎
系5.11
を有限次元Lie代数とする.
-
(1)
冪零根基は,の冪零イデアルである.
-
(2)
の任意の有限次元表現のトレース形式の退化空間は,冪零根基を含む.
証明
(1) 冪零根基がのイデアルであることは,すでに述べた.命題5.10より,あるが存在してとなり,特にとなるから,は冪零である.
(2) 命題5.10より,の任意の元は冪零である.よって,のレース形式をと書くと,である. ∎
命題5.12
, を有限次元Lie代数とし,を全射準同型とする.このとき,である.
証明
をの有限次元既約表現とすると,はの有限次元既約表現だから,である.すなわち,である.任意のに対してこれが成り立つから,である.∎
注意5.13
後に系6.25で示すように,標数の可換体上の有限次元Lie代数の間の全射準同型について,が成り立つ.
補題5.14
は標数の可換体上の有限次元Lie代数であり,忠実な有限次元既約表現をもつとする.このとき,の任意の可換イデアルについて,である.
証明
一般性を失わず,は(はベクトル空間)の部分Lie代数であり,その自然表現は既約であるとする.の可換イデアルを任意にとり,が生成するの部分単位的代数をと書く.は可換だから,も可換である.
準備として,のイデアルであってに含まれるものについて,ならばであることを示す.であるとすると,任意のとに対してとなるから,の任意の元は冪零である(ここで,の標数がであることを用いた).そこで,
と置くと,系4.8よりである.さらに,がのイデアルであることから容易に確かめられるように,は安定である.したがって,の自然表現が既約であることより,である.すなわち,である.
補題の主張を示す.まず,が可換であることより
だから,前段の結果より,である.したがって,である.次に,この結果より
だから,前段の結果より,である.これで,主張が示された.∎
定理5.15
標数の可換体上の有限次元Lie代数について,が成り立つ.
証明
を示す.はの冪零イデアルだから(系5.11 (1)),に含まれる.また,を上の線型形式であって上で消えるものとすると,はの次元(したがって,既約)表現である.したがって,である.よって,が成り立つ.
を示す.の任意の有限次元既約表現に対して,であることを示せばよい.は可解だから,を満たす最小のがとれる.,と置くと,の自然表現は既約であり,はのイデアルである.また,だから,は可換である.したがって,補題5.14より
が成り立つ.ここで,であるとすると,だから,上式よりとなるが,これはの最小性に反する.よって,であり,これを上式に代入すると
を得る.これで,主張が示された.∎
系5.16
を標数の可換体上の有限次元Lie代数の有限族とし,と置く.このとき,である.
系5.17
標数の可換体上の有限次元Lie代数に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
は可解である.
-
(b)
は冪零である.
-
(c)
は可解である.
5.4 Lieの定理
定理5.18
を標数の可換体上の有限次元可解Lie代数とし,をその有限次元既約表現とする.
-
(1)
は可換である.
-
(2)
の任意の元が三角化可能ならば55 5 が代数閉ならば,この仮定は常に満たされる.,は次元である.
証明
(1) が可解であることよりだから(定理5.15),である.
(2) の任意の元が三角化可能であるとすると,(1)と合わせて,は同時三角化可能である.特に,の同時固有ベクトルがとれる.ところが,は既約だから,が成り立つ. ∎
系5.19 (Lieの定理)
を標数の可換体上の可解Lie代数,をその有限次元表現とし,の任意の元は三角化可能であるとする.このとき,の基底を適当にとれば,の任意の元の対応する行列表示が上三角行列となる.
5.5 可解性に関するCartanの判定法
命題5.20
を標数の可換体上の有限次元Lie代数とし,をその有限次元表現とする.のトレース形式をと書くと,が成り立つ.
補題5.21
を完全体上の有限次元ベクトル空間とする.を上の線型変換とし,そのJordan分解をと書く.このとき,上の線型変換のJordan分解は,である.特に,とは,ともにの定数項をもたない係数多項式として表せる.
証明
だからであり,だからである.は冪零だから,補題4.6より,も冪零である.は半単純だから,の代数閉包を考えると,係数拡大は対角化可能である.そこで,を対角化するの基底をとり,各に対して()と書く.この基底に対応するの基底をと書くと,各, に対してだから,も対角化可能である.よって,は半単純である.
後半の主張は,Jordan分解に関する一般論である.∎
補題5.22
を標数の可換体上の有限次元ベクトル空間,, をの部分ベクトル空間であってを満たすものとし,
と置く.このとき,がを満たすならば,は冪零である.
証明
必要ならば代数閉包への係数拡大を考えることで,一般性を失わず,は代数閉であると仮定する.がを満たすとする.のJordan分解をと書き,を対角化するの基底をとり,各に対して()と書く.が冪零であることを示すためには,すべてのがであることをいえばよい.そのために,
と置き,ベクトル空間の双対空間がであることを示す.
を任意にとり,これに対してを,
によって定める.の基底に対応するの基底をと書くと,各, に対して,
が成り立つ.ここで,定数項をもたない係数多項式であって,任意の, に対してを満たすもの(ならばであり,ならばだから,このようなが存在する)をとると,上式より,
が成り立つ.一方で,補題5.21より,は,の定数項をもたない係数多項式として表せる.これら二つより,は,の定数項をもたない係数多項式として表せる.
さて,よりであり,前段で示したようにはの定数項をもたない係数多項式として表せるから,も成り立つ.すなわち,である.したがって,仮定より,
である.この等式の両辺にを施せば,
を得る.各は有理数だから,上式より,はすべてである.すなわち,である.これで,主張が示された.∎
定理5.23 (可解性に関するCartanの判定法I)
を標数の可換体上の有限次元Lie代数とし,をその忠実な有限次元表現とする.このとき,次の条件は同値である.
-
(a)
は可解である.
-
(b)
のトレース形式をと書くと,が成り立つ.
証明
が可解ならば,だから,命題5.20よりである.
定理5.24
標数の可換体上の有限次元Lie代数について,根基は,のKilling形式に関するの直交空間に等しい.
証明
系5.25 (可解性に関するCartanの判定法II)
標数の可換体上の有限次元Lie代数に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
は可解である.
-
(b)
のKilling形式をと書くと,が成り立つ.
証明
系5.26
標数の可換体上の有限次元Lie代数の根基は,の特性イデアルである.
系5.27
を標数の可換体上の有限次元Lie代数とし,をそのイデアルとする.このとき,が成り立つ.
5.6 根基・冪零根基と係数体の変更
命題5.28
を可換体とし,をその拡大体とする.
-
(1)
の標数がであるとする.このとき,有限次元-Lie代数について,である.
-
(2)
はの有限次拡大体であるとする.このとき,有限次元-Lie代数について,である.
証明
(2) をのイデアルとする.すると,はのイデアルである.また,帰納的に確かめられるように,任意のに対してだから,が可解ならばも可解である.このことと根基の最大性より,となるから,のイデアルが存在してが成り立つ.が可解であることとが可解であることとは同値だから(命題5.2),であり,が成り立つ. ∎
命題5.29
を標数の可換体とし,をその拡大体とする.
-
(1)
有限次元-Lie代数について,である.
-
(2)
はの有限次拡大体であるとする.このとき,有限次元-Lie代数について,である.