1.1 Cartan部分代数
定義1.1 (Cartan部分代数)
有限次元Lie代数のCartan部分代数(Cartan subalgebra)とは,の冪零部分Lie代数であって,を満たすものをいう.
を有限次元Lie代数とし,をその部分Lie代数とするとき,がのCartan部分代数ならば,明らかに,はのCartan部分代数でもある.
命題1.2
有限次元冪零Lie代数は,自身を唯一のCartan部分代数にもつ.
証明
明らかに,はのCartan部分代数である.これが唯一のCartan部分代数であることを示す.をの真部分Lie代数とし,を満たす最大のをとる.すると,
となるから,が成り立つ.よって,はのCartan部分代数ではない.∎
系1.3
を有限次元Lie代数とし,をそのCartan部分代数とする.このとき,はの極大冪零部分Lie代数(すなわち,冪零部分Lie代数の中で包含関係に関して極大なもの)である.
証明
定義より,Cartan部分代数は冪零である.また,の冪零部分Lie代数がを含むとすると,はのCartan部分代数でもあるから,命題1.2よりである.∎
系1.4
を有限次元Lie代数とする.とがともにのCartan部分代数であり,を満たすならば,である.
証明
系1.3から従う.∎
命題1.5
を有限次元Lie代数の有限族とし,と置く.各に対してをのCartan部分代数とすると,はのCartan部分代数である.逆に,のCartan部分代数は,すべてこのようにして得られる.
証明
冪零Lie代数の直和は冪零である(参照).また,各に対してをの部分ベクトル空間として,と置くと,である.よって,各に対してをのCartan部分代数とすると,はのCartan部分代数である.
命題1.6
を可換体とし,をその拡大体とする.
-
(1)
上の有限次元Lie代数の部分Lie代数について,がのCartan部分代数であることと,がのCartan部分代数であることとは同値である.
-
(2)
はの有限次拡大体であるとする.このとき,上の有限次元Lie代数の部分Lie代数について,がのCartan部分代数であることと,がのCartan部分代数であることとは同値である.さらに,の任意のCartan部分代数は,のCartan部分代数を用いてと書ける.
1.2 同時広義固有空間に関する準備
本小節では,を集合,をベクトル空間とし,写像が定まっているとき,に対して
と書く.が1元集合である場合には,を単にと書く.定義から明らかに,はの部分ベクトル空間であり,
が成り立つ.
をLie代数,をその部分集合とするとき,特に断らなければ,写像を考えることにより,記号()を用いる.すなわち,
と書く.この記号は,本節の以下の部分を通して用いる.
命題1.7
を集合,をベクトル空間とし,を写像とする.このとき,和は直和である.
証明
異なる有限個の元, , を任意にとり,各に対してとするとき,ならばであることを示せばよい.この主張を,に関する帰納法で示す., のとき,主張は明らかである.とし,がより小さい場合には主張が成り立つとする., , は異なるから,が成り立たないようながとれる.各はの広義固有空間に属し,線型代数の一般論より,広義固有空間の和は直和である.したがって,ならば,任意のに対して
が成り立つ.のとり方より,任意のに対しては全体にはならない.よって,上式と帰納法の仮定より,を得る.これで,帰納法が完成した.∎
命題1.8
を集合,, , をベクトル空間とし,,,を写像とする.は双線型写像であり,任意の,,に対して
を満たすとする.このとき,任意の, に対して,
が成り立つ.
証明
仮定より,任意の,,に対して
だから,とすると
である.よって,かつならば,である.∎
系1.9
をLie代数とし,をその部分集合とする.このとき,任意の, に対して,が成り立つ.特に,はの部分Lie代数である.
証明
命題1.8から従う.∎
系1.10
をLie代数,をその部分集合とし,を不変な双線型形式とする.このとき,任意の, ,に対して,が成り立つ.
証明
写像, をによって定め,写像をによって定めると,の不変性より,これらは命題1.8の仮定を満たす.よって,任意の, ,に対して,である.∎
補題1.11
をベクトル空間,, とし,あるが存在してを満たすとする.このとき,任意のに対して,広義固有空間は安定である.
証明
双線型写像をによって定めると,任意のとに対してが成り立つ.したがって,に対して命題1.8を適用することで,を得る.仮定よりだから,は安定である.∎
命題1.12
を集合,を有限次元ベクトル空間とし,を写像とする.このとき,次の条件は同値である.
-
(a)
直和分解が成立し,任意のに対して,は安定である.
-
(b)
の任意の元は三角化可能であり,かつ任意の, に対してあるが存在してを満たす.
証明
条件(a)が成り立つとして,, とすると,広義固有空間分解が成立し,各は安定である.広義固有空間分解が成立することより,は三角化可能である.また,任意のに対して,()と書くと,任意のに対して
である.は冪零だから,が十分大きいとき,上式の最右辺はとなる.任意のに対してこれが成り立ち,が有限次元であることよりとなるは有限個だから,が十分大きいときとなる.
条件(b)が成り立つとする.まず,とすると,任意のに対しては安定だから(補題1.11),も安定である.
次に,直和分解が成立することを示す.和が直和であることは,命題1.7ですでに示した.であることを,次元に関する帰納法で示す.次元がより小さい場合には主張が成り立つとする.あるが存在してとなるならば,主張は明らかである.そうでないとすると,あるが存在して,直和分解が非自明な(すなわち,でない直和因子が二つ以上存在する)ものとなる(任意のに対して,仮定よりが三角化可能であり,したがって,広義固有空間分解が成立することを用いた).仮定より,各は安定だから,帰納法の仮定より,が成り立つ.これで,帰納法が完成した. ∎
系1.13
を代数閉体上の有限次元Lie代数とし,をその冪零部分Lie代数とする.このとき,直和分解が成立する.
証明
係数体が代数閉であることより,上の任意の線型写像は三角化可能である.また,が冪零であることよりを満たすがとれ,このについて,任意の, に対してが成り立つ.よって,主張は,命題1.12から従う.∎
命題1.14
を標数の可換体上の有限次元Lie代数とし,をその冪零部分Lie代数とする.このとき,あるが存在して,任意のに対して,が成り立つ.
証明
命題1.15
を有限次元Lie代数,をその冪零部分Lie代数とし,を不変な非退化双線型形式とする.このとき,任意のに対して,は非退化である.
1.3 Cartan部分代数の存在
補題1.16
を無限可換体上の有限次元Lie代数とし,をその部分Lie代数とする.が次の条件を満たすとする.
-
(i)
は,の部分Lie代数の族の中で極小である.
-
(ii)
である.
このとき,が成り立つ(すなわち,はの中で最小である).
証明
条件(i), (ii)が満たされるとして,と置く.はの部分Lie代数であり(系1.9),条件(ii)よりを含む.随伴表現が誘導するのと上の表現を,それぞれとと書く.を任意にとり,に対して,, の固有多項式をそれぞれ
(ここで,,である)と書く.上式とおよびを比較すれば,各とがたかだか次の係数多項式であることがわかる.また,の固有多項式は,である.以下,に対して
であることに注意する.
定理1.17
を無限可換体上の有限次元Lie代数とする.の部分Lie代数に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
はのCartan部分代数である.
-
(b)
は,の部分Lie代数の族に属し,かつこの中で極小である.
-
(c)
である.
証明
がのCartan部分代数であるとする.任意のに対して,が冪零であることよりは冪零だから,である.そこで,の部分Lie代数の族の中で極小なもの()をとると(次元が最小のものをとればよい),補題1.16より,任意のに対してである.
であることを示す.とはの部分Lie代数であり(系1.9),だから,随伴表現はの上の表現を誘導する.この表現をと書くと,任意のに対して,であることより,は冪零である.したがって,であると仮定すると,Engelの定理より,のでない元であってによって零化されるものが存在する.すなわち,であってを満たすものが存在する.ところが,これはであることに反するから,背理法より,である.
がの中で極小であることを示す.がを満たすとすると,だから,がの中で最小であることより,である.よって,はの中で極小である.
()がの中で極小であるとする.すると,であり,仮定より特にはの中で極小だから,補題1.16より,が成り立つ.
系1.18 (Cartan部分代数の存在)
無限可換体上の有限次元Lie代数は,Cartan部分代数をもつ.
証明
定理1.17より,の部分Lie代数の族の中で極小なものをとれば(次元が最小のものをとればよい),それがのCartan部分代数である.∎
1.4 多項式写像に関する準備
本小節では,有限次元ベクトル空間に対して,上の多項式関数全体のなす単位的結合代数を,と書く.係数体が無限可換体である場合,これは,双対空間の対称代数に自然に同型である.
とを無限可換体上の有限次元ベクトル空間とし,を多項式写像(すなわち,任意のに対してであるような写像)とするとき,多項式写像による引き戻しが単位的代数の準同型を定めることに注意する.
定義1.19 (支配的な多項式写像)
とを無限可換体上の有限次元ベクトル空間とする.多項式写像が支配的(dominant)であるとは,による引き戻しが単射であることをいう.
を無限可換体上の有限次元ベクトル空間とする.の部分集合であって上の多項式関数の族の共通零点集合として書けるものの全体は,閉集合系の公理を満たす.これによって定まる位相を,のZariski位相(Zariski topology)という.Zariski位相を考えていることを明示する意味で,「Zariski閉集合」,「Zariski開集合」,「Zariski稠密集合」などという.容易に確かめられるように,は整域であり,このことから,の任意の空でないZariski開集合がにおいてZariski稠密であることが従う.
本小節の以下の部分では,可換環からへの環準同型全体のなす空間を,と書く.また,可換環のによる局所化をと書き,である場合にはこれをとも書く.
補題1.20
を無限可換体上の有限次元ベクトル空間とする.に対して,を,によって定める.このとき,写像は,からへの線型同型写像である.
証明
は双対空間の対称代数に自然に同型だから,の基底を一つ固定すると,からへの環準同型は,, , の行き先を決めるごとに一意に定まる.一方で,の元も,, , の値を決めるごとに一意に定まる.よって,写像は,からへの線型同型写像である.∎
補題1.21
とを整域とし,はに部分環として含まれ,は単位的代数として有限生成であるとする.このとき,あると上代数的独立な, , が存在して,が上整となる.
証明
と置き,分数体と局所化を考える.Noetherの正規化補題[1, Chapter 5, Exercise 16]より,上代数的独立な, , が存在して,が上整となる.必要ならば分母を払うことで,, , としてよい.
任意のに対して,あるが存在して,が上整となることを示す.は(の元とみなすと)上整だから,あると()が存在して,
を満たす.上式で分母を払うことで,あると()が存在して,
を満たすことがわかる.よって,は上整である.
の単位的代数としての有限生成系, , をとる.前段の結果より,各に対して,をが上整となるようにとれる.と置けば,任意のに対しては上整である.は単位的代数として, , によって生成されるから,このことより,は上整である.∎
補題1.22
とを整域とし,はに部分環として含まれ,は単位的代数として有限生成であるとする.このとき,任意のに対して,あるが存在して,任意の代数閉体と,任意のであってを満たすものに対して,を拡張するであってを満たすものが存在する.
証明
命題1.23
とを無限可換体上の有限次元ベクトル空間とする.多項式写像に対する次の条件について,が成り立つ.さらに,が代数閉ならば,これらの条件は同値である.
-
(a)
は支配的である.
-
(b)
はにおいてZariski稠密である.
-
(c)
の任意のZariski稠密開集合のによる像は,のあるZariski稠密開集合を含む.
証明
次のとおり,主張の同値性が成り立つ.
| が支配的でない | |||
明らかである.
とを無限可換体上の有限次元ベクトル空間,を多項式写像とし,とする.をに関して次数ごとに整理して
と表すときの線型写像を,の点における微分(derivative)といい,と書く.
命題1.24
とを無限可換体上の有限次元ベクトル空間とする.多項式写像のある点における微分が全射ならば,は支配的である.
証明
一般性を失わず,であり,が全射であるとする.すなわち,は全射線型写像と次以上の項のみからなる多項式写像との和であるとする.とし,の斉次部分をと書き,と置く.すると,は斉次多項式関数と次以上の項のみからなる多項式関数との和となり,は全射でありだから,を得る.よって,による引き戻しは単射だから,は支配的である.∎
1.5 Cartan部分代数の共役性
を標数の可換体上のベクトル空間とする.線型写像が局所冪零(locally nilpotent)であるとは,任意のに対して,あるが存在して,を満たすことをいう.が有限次元である場合には,が冪零であることと局所冪零であることとは同値である.
上の局所冪零な線型写像に対して,上の線型写像を,
(右辺は有限項を除きである)と定める11 1 本小節の範囲では,が有限次元である(したがって,が冪零である)場合だけで十分である.一般の場合の定義は,3節や4節で用いられる..容易に確かめられるように,とが互いに可換な上の局所冪零な線型写像ならば,が成り立つ.特に,は,を逆にもつの自己線型同型である.また,が結合的とは限らない代数であり,がその上の局所冪零な導分ならば,は結合的とは限らない代数の自己同型である.
定義1.25 (初等自己同型)
を標数の可換体上の有限次元Lie代数とする.が冪零であるようなに対する自己同型の全体が生成するの部分群を,と書く.の元を,の初等自己同型(elementary automorphism)という.
を標数の可換体上の有限次元Lie代数とし,をその冪零部分Lie代数とする.このとき,,とすると,は冪零だから(命題1.14),が定まる.本小節の以下の部分では,この形の初等自己同型全体が生成するの部分群を,と書くことにする.
補題1.26
を標数の代数閉体上の有限次元Lie代数とし,をその冪零部分Lie代数とする.であってを満たすもの(が有限次元であることと命題1.7より,このようなは有限個である)を重複なく列挙して,, , とする.
-
(1)
と置くと,はのZariski稠密開集合である.
-
(2)
写像を
と定めると,これは支配的な多項式写像である.
証明
(1) とする.直和分解が成立するから(系1.13),
である.したがって,であるための必要十分条件は,, , がいずれもでないことである.よって,は,上の多項式関数の非零点集合だから,のZariski稠密開集合である.
補題1.27
を標数の代数閉体上の有限次元Lie代数とし,とをそのCartan部分代数とする.このとき,とであって,を満たすものが存在する.
証明
定理1.28 (Cartan部分代数の共役性)
を標数の代数閉体上の有限次元Lie代数とする.
-
(1)
の部分群は,のCartan部分代数(系1.18より存在する)のとり方によらない.これをと書くと,はの正規部分群である.
-
(2)
のCartan部分代数は,すべて((1)の記号)の下で共役である.
証明
をのCartan部分代数とし,とすると,ものCartan部分代数だから,
が成り立つ.よって,はの正規部分群である.
(2) (1)の証明の前段の状況で,は,をに移す. ∎
系1.29
標数の可換体上の有限次元Lie代数のCartan部分代数は,すべて等しい次元をもつ.
証明
系1.31
を標数の可換体上の有限次元Lie代数とする.
-
(1)
の階数は,に対する部分Lie代数の次元の最小値に等しい.
-
(2)
に対して,がのCartan部分代数であるための必要十分条件は,の次元がの階数に等しいことである.
-
(3)
の任意のCartan部分代数は,(2)の方法で得られる.
証明
定理1.17で示したように,の部分Lie代数がのCartan部分代数であるための必要十分条件は,がの部分Lie代数の族に属し,かつこの中で極小であることである.このことと階数の定義から,主張が従う.∎
1.6 簡約Lie代数のCartan部分代数
命題1.32
を標数の可換体上の簡約Lie代数とする.の部分Lie代数に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
はのCartan部分代数である.
-
(b)
のCartan部分代数が存在して,と書ける.
補題1.33
標数の可換体上の半単純Lie代数のCartan部分代数は,可換である.
証明
の随伴表現のへの制限をと置くと,のトレース形式は,のKilling形式の制限にほかならない.半単純性に関するCartanの判定法よりは非退化だから,も非退化である(定理1.17,命題1.15).したがって,は簡約である(参照).一方で,は冪零でもあるから,は可換である.∎
補題1.34
を標数の可換体上の簡約Lie代数とし,をその冪零部分Lie代数とする.このとき,任意のに対して,そのにおける半単純部分と冪零部分は,ともにに属する.特に,をのCartan部分代数とすると,任意のに対して,そのにおける半単純部分と冪零部分は,ともにに属する.
証明
, として,の半単純部分をと書くと,
である.上式において,をその半単純部分に置き換えても,同じ同値性が成り立つ.はの線型写像としての半単純部分だから,Jordan分解に関する一般論より,はの定数項をもたない多項式として表せる.したがって,ならばである.上記の同値性と合わせて,ならばであることを得る.よって,がに属するならば,ともに属する.
がのCartan部分代数ならば,は冪零であり,が成り立つ(定理1.17).よって,後半の主張は,前半の主張から従う.∎
Lie代数の部分ベクトル空間が(において)極大可換(maximally commutative)であるとは,が可換であり,かつの可換な部分ベクトル空間であってを真に含むものが存在しないことをいう.容易に確かめられるように,これが成り立つための必要十分条件は,であることである.
定理1.35
を標数の可換体上の簡約Lie代数とする.の部分Lie代数に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
はのCartan部分代数である.
-
(b)
はにおいて極大可換であり,の任意の元は半単純である.
証明
定理1.17ですでに示したように,がのCartan部分代数であるための必要十分条件は,であることである.また,の任意の元が半単純ならば,その同時固有値の同時広義固有空間は,同時固有値の同時固有空間,すなわちに等しい.よって,主張を示すためには,がのCartan部分代数であるとして,の任意の元が半単純であることを示せばよい.