4.1 加群のウェイト
定義4.1 (ウェイト)
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,を加群とする.のへの作用の同時固有値(これは,からへの写像である),同時固有ベクトル,同時固有空間を,それぞれ,の(に関する)ウェイト(weight),ウェイトベクトル(weight vector),ウェイト空間(weight space)という.のの作用における同時固有値の重複度を,におけるウェイトの重複度(multiplicity)という.
定義4.3 (ウェイト加群)
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とする.加群は,それが(に関する)ウェイト空間の直和に分解される(すなわち,のへの作用が同時対角化可能である)とき,(に関する)ウェイト加群(weight module)であるという.
命題4.4
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とする.を加群とすると,任意の, に対して,が成り立つ.
証明
,とすると,任意のに対して
だから,である.よって,である.∎
命題4.5
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とする.を加群の間の準同型とすると,任意のに対して,が成り立つ.
証明
とすると,任意のに対して
だから,である.よって,である.∎
4.2 最高ウェイト加群
定義4.6 (極大ベクトル)
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数,をルート系の基底,に関する正ルート全体のなす集合をと書き,と置く.加群の(に関する)ウェイトベクトルであってを満たすものを,の(とに関する)極大ベクトル(maximal vector)という.の極大ベクトルであってを加群として生成するものを,の(とに関する)極大生成ベクトル(maximal generating vector)という.
定義4.7 (最高ウェイト加群)
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.加群が(とに関する)ウェイトの極大生成ベクトルをもつとき,は(とに関する)最高ウェイトの最高ウェイト加群(highest weight module of highest weight )であるという.
命題4.9
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.加群のウェイトベクトルが極大ベクトルであるための必要十分条件は,任意の単純ルートに対してであることである.
証明
に関する正ルート全体のなす集合をと書き,と置くと,はをLie代数として生成する(系3.17 (1)).よって,主張が成り立つ.∎
命題4.10
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.に関する正ルート全体のなす集合をと書き,と置く.をウェイトの極大生成ベクトルをもつ最高ウェイト加群とする.
-
(1)
が成り立つ.
-
(2)
の任意のウェイトはに属し,その重複度はすべて有限である.また,ウェイトの重複度はである.
-
(3)
はウェイト加群である.
証明
(1) はを加群として生成し,Poincaré–Birkhoff–Wittの定理66 6 脚注5を参照のこと. よりだから,である.
(2), (3) に関する正ルートを重複なく列挙して, , とし,各に対してを一つずつ固定する.すると,Poincaré–Birkhoff–Wittの定理77 7 脚注5を参照のこと. より(, , )の全体はをベクトル空間として生成するから,(1)と合わせて
を得る.ここで,各は,ウェイトのウェイトベクトルである(命題4.4).よって,の任意のウェイトはに属し,はウェイト加群である.また,任意のに対して,を満たすはたかだか有限個であり,のときはこのような組はのみである.よって,の任意のウェイトの重複度は有限であり,ウェイトの重複度はである. ∎
系4.11
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.最高ウェイト加群の最高ウェイトは一意に定まり,の極大生成ベクトルはスカラー倍を除いて一意である.
証明
命題4.10 (2)から従う.∎
注意4.12
系4.13
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.最高ウェイト加群から自身への準同型は,恒等写像のスカラー倍のみである.
系4.14
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.を最高ウェイトの最高ウェイト加群とする.
-
(1)
各は,に倍写像として作用する.
-
(2)
は直既約88 8 加群が直既約(indecomposable)であるとは,であり,かつが二つのでない部分加群の直和として書けないことをいう. である.
-
(3)
さらに,が有限次元であるとする.このとき,は既約である.
証明
(1) のへの作用は,準同型だから,系4.13よりスカラー倍である.一方で,をウェイトの極大生成ベクトルとすると,である.よって,は,に倍写像として作用する.
(2) 明らかに,である.を直和分解とすると,対応する射影は準同型だから,系4.13より()と書ける.ならばであり,ならばである.よって,は直既約である.
(3) Weylの完全可約性定理より,の加群としての既約分解がとれる.各は安定だが,(1)より安定でもあるから,は加群としての既約分解でもある.(2)よりは直既約だから,は1元集合であり,は既約である. ∎
系4.15
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.をウェイトの極大生成ベクトルをもつ最高ウェイト加群とし,をその真部分加群とする.このとき,であり,はウェイトの極大生成ベクトルをもつ最高ウェイト加群である.
4.3 Verma加群
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.に関する正ルート全体のなす集合をと書き,,と置く.このとき,が可換であること(定理1.35)と命題3.6 (1)よりだから,次元加群を,
によって定義できる.このことを踏まえて,次のように定義する.
定義4.16 (Verma加群)
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.に関する正ルート全体のなす集合をと書き,,と置く.に対して,上記の次元加群を用いて,Verma加群(Verma module)を
と定める(ここで,を自然に右加群とみなしている).また,
と定める.
命題4.17
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.とする.
-
(1)
Verma加群は,ウェイトの極大生成ベクトルをもつ最高ウェイト加群である.
-
(2)
をウェイトの極大ベクトルをもつ加群とする.このとき,準同型であってをに移すものが,一意に存在する.
証明
に関する正ルート全体のなす集合をと書き,,と置く.
(1) 任意のに対して,である.任意のに対して,である.明らかに,はを加群として生成する.以上より,はのウェイトの極大生成ベクトルである.
(2) がのウェイトの極大ベクトルであることを用いて容易に確かめられるように,をに移す双線形写像は,均衡である.よって,テンソル積の普遍性より,線型写像であって各をに移すものが,一意に存在する.このが,条件を満たす一意な準同型である. ∎
定理4.18
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.とする.
-
(1)
Verma加群の真部分加群に対して商加群を与える対応は,の真部分加群と最高ウェイトの最高ウェイト加群の同型類との間の一対一対応である.
-
(2)
Verma加群は,最大真部分加群をもつ.これに対応する最高ウェイト加群は既約であり,その他の真部分加群に対応する最高ウェイト加群は無限次元かつ可約である.
証明
(1) 系4.15より,の真部分加群に対して,は最高ウェイトの最高ウェイト加群である.
最高ウェイトの最高ウェイト加群が,同型を除いての真部分加群による商で尽くされることを示す.をウェイトの極大生成ベクトルをもつ最高ウェイト加群とすると,Verma加群の普遍性(命題4.17 (1))より,準同型であってをに移すものが一意に存在する.はを加群として生成するから,このは全射であり,したがって,同型を誘導する.だから,はの真部分加群である.
定義4.19 (Verma加群の既約商)
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.に対して,Verma加群をその最大真部分加群で割って得られる最高ウェイト既約加群(定理4.18)を,Verma加群の既約商(irreducible quotient of the Verma module)という.からへの等化準同型によるの像を,そのままと書く.
注意4.20
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とすると,は半単純Lie代数の分裂化Cartan部分代数との直和として書ける(注意3.4).をルート系の基底,に関する正ルート全体のなす集合をと書き,
と置く.としてと置き,とのそれぞれの上のVerma加群
とその極大生成ベクトル
を考える.
を加群とみなすと,はウェイトの極大生成ベクトルだから,の普遍性(命題4.17 (2))より,準同型であってをに移すものが(一意に)存在する.また,任意のに対してのへの作用を倍写像と定めることでは加群をなし,はウェイトの極大生成ベクトルとなるから,の普遍性(命題4.17 (2))より,準同型であってをに移すものが(一意に)存在する.さらに,Verma加群の普遍性から誘導される準同型の一意性(命題4.17 (2))を用いて確かめられるように,とは互いに他の逆である.以上より,は,に上記の方法での作用を定めて得られる加群に同型である.
の各元はにスカラー倍によって作用するから,前段の同型を通して,の部分加群との部分加群は一対一に対応する.よって,前段の同型によってとを同一視するとき,かつである.
4.4 整ベクトルと優整ベクトルに関する補足
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.は上の被約ルート系であり,の双対ルートは()(は定理3.10によって定まるものとする)によって与えられる(定理3.13).したがって,に対して,
| がに関する整ベクトル | |||
| がに関する優整ベクトル |
である.
前段の状況で,「整ベクトル」と「優整ベクトル」の定義を拡張して,に対してもこれらの用語を用いることにする.すなわち,上記の同値性がに対しても成り立つとすることで,「がに関する整ベクトルである」ことと「がに関する優整ベクトルである」ことを定義する.と置き,直和分解に関する射影をと書くと,
| がに関する整ベクトル | |||
| がに関する優整ベクトル |
である.
この拡張された定義に関して,次が成り立つ.この命題は,定理4.29の証明で用いられる.
命題4.22
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.の部分集合が,次の条件を満たすとする.
-
(i)
あるが存在して,となる.
-
(ii)
は安定である.
このとき,は有限である.
証明
およびと置き,直和分解に関する射影をおよびと書く.だから,条件(i)より,である.また,は,に含まれ安定だから,有限である(参照).よって,は有限である.∎
4.5 条件(CD)を満たす有限次元加群
定義4.23 (条件(CD)を満たす加群)
をLie代数とする.加群が条件(CD)を満たす99 9 「条件(CD)を満たす」は,本稿だけの用語である.“center”と“diagonalizable”の頭文字をとって“(CD)”とした. とは,の任意の元のへの作用が対角化可能であることをいう.
注意4.24
Lie代数がを満たす(これは,が半単純ならば成り立つ)ならば,明らかに,任意の加群は条件(CD)を満たす.
命題4.25
をLie代数とし,を既約加群とする.任意のに対して,次の条件は同値である.
-
(a)
のへの作用はスカラー倍である.
-
(b)
のへの作用は対角化可能である.
-
(c)
のへの作用は固有値をもつ.
特に,が代数閉ならば,任意の有限次元既約加群は条件(CD)を満たす.
証明
明らかである.
のへの作用をと書く.が固有値をもつとすると,はから自身への単射でない準同型だから,はのでない部分加群である.は既約だから,である.すなわち,が成り立つ.
最後の主張 が代数閉であるとすると,有限次元ベクトル空間上の線型変換は必ず固有値をもつ.よって,主張は,すでに示した同値性から従う. ∎
命題4.26
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とする.を有限次元加群とする.
-
(1)
の任意のウェイトは,に関する整ベクトルである.
-
(2)
が条件(CD)を満たすとする.このとき,は完全可約なウェイト加群である.
-
(3)
が条件(CD)を満たすとし,をルート系の基底とする.このとき,ならばは極大ベクトルをもち,が既約ならばは最高ウェイト加群である.
証明
各に対して,三対を定理3.10のようにとる.
(1) がウェイトのウェイトベクトルをもつとする.とし,三対によってを加群とみなす.すると,だから,加群はウェイトをもつ.したがって,系2.13 (1)より,である.これが任意のルートに対して成り立つから,はに関する整ベクトルである.
(2) が完全可約であることを示す.に対して
と置くと,仮定より,直和分解が成立する.さらに,の任意の元の作用との任意の元の作用が可換であることから確かめられるように,各はの部分加群である.Weylの完全可約性定理より,各は加群として完全可約だが,一方で,の任意の部分ベクトル空間は安定だから,は加群としても完全可約である.よって,加群は完全可約である.
がウェイト加群であることを示す.とし,三対によってを加群とみなす.すると,加群はウェイト加群だから(系2.13 (1)),のへの作用は対角化可能である.また,仮定より,の任意の元のへの作用は対角化可能である.ここで,
であり(注意3.4,系3.14),は可換だから(定理1.35),のへの作用は同時対角化可能である.すなわち,加群はウェイト加群である.
(3) であるとする.は有限次元だからそのウェイトは有限個であり,一方で,(2)よりは少なくとも一つのウェイトをもつ.そこで,に関する正ルート全体のなす集合をと書くと,のウェイトであってがのウェイトを含まないものがとれる.をとると,任意のに対してだから(命題4.4),は極大ベクトルである.さらに,が既約ならば,はを加群として生成するから,は極大生成ベクトルである. ∎
命題4.27
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とする.とは条件(CD)を満たす有限次元加群であり,任意のウェイトのにおける重複度とにおける重複度が等しいとする.このとき,とは同型である.
証明
とはウェイト加群だから(命題4.26 (2)),仮定より,との次元は等しい.この共通の次元に関する帰納法で,主張を示す.である場合には,主張は明らかである.であるとして,次元がより小さい場合には主張が成り立つとする.とは有限次元だから,そのウェイトは有限個である.そこで,ルート系の基底を一つ固定し,それに関する正ルート全体のなす集合をと書くと,とのウェイトであってがとのウェイトを含まないものがとれる.各に対してウェイトベクトルをとると,のとり方より,これは極大ベクトルである.そこで,が生成する部分加群をと置くと,は最高ウェイトの有限次元最高ウェイト加群だから,に同型である(定理4.18 (2)).は完全可約だから(命題4.26 (2)),部分加群であっての補空間であるものがとれる.とはふたたび主張の仮定を満たすから,帰納法の仮定より,これらは同型である.よって,とも同型である.これで,帰納法が完成した.∎
4.6 最高ウェイト理論
補題4.28
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とする.を加群とし,を対応する表現とする.とし,三対を定理3.10のようにとり,上の線型写像とは局所冪零であるとする.このとき,
と定めると,任意のに対して,が成り立つ.
証明
, とし,は冪零であり,は局所冪零であるとする.すると,任意のに対して
だから(どの総和も有限項を除いてになることに注意する),
が成り立つ.したがって,とが冪零であること(系3.7)に注意してと定めると,任意のに対して,
が成り立つ.
定理4.29
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.に対して,次の条件は同値である.
-
(a)
はに関する優整ベクトルである.
-
(b)
任意のに対して,のすべての元のへの作用は局所冪零である.
-
(c)
のウェイト全体のなす集合は,安定である.
-
(d)
は有限次元である.
さらに,これらの条件の下で,におけるウェイトの重複度は,の作用の各軌道上で一定である.
証明
各に対して,三対を定理3.10のようにとる.
がに関する優整ベクトルであるとする.とし,三対によってを加群とみなす.の標準基底をと書くとき,の加群への作用が局所冪零であることを示したい.は上の線型写像として冪零だから,その任意の有限次元加群への作用も冪零である(参照).したがって,のすべての有限次元部分加群の和が全体となることを示せばよい.
をの有限次元部分加群とすると,任意のに対して
だから,もの有限次元部分加群である.したがって,のすべての有限次元部分加群の和は,の部分加群である.は既約加群だから,あとは,有限次元部分加群であってでないことを示せばよい.
が生成するの部分加群が有限次元であることを示そう.と置くと,仮定より,である.は加群のウェイトの極大ベクトルだから,各に対して
と置くと,が生成するの部分加群はである(命題2.7 (2), (3)).ここで,に注目すると,命題2.7 (1)より
である.また,とすると,であり(命題3.26 (4)),は加群の極大ベクトルだから,
である.もしならば,上式よりは加群の極大ベクトルであり(命題4.9),は既約加群だから,これは自動的に極大生成ベクトルとなる.ところが,のウェイトはだから(命題4.4),これは,最高ウェイトの一意性(系4.11)に矛盾する.よって,背理法よりであり,が生成するの部分加群は有限次元である.これで,主張が示された.
,最後の主張 条件(b)が成り立つとすると,各に対してを補題4.28のとおりに定義でき,これは任意のに対してを満たす.よって,任意のとに対して,におけるウェイトとの重複度は等しい.特に,のウェイト全体のなす集合は,安定である.
のウェイト全体のなす集合をと置くと,である(命題4.10 (2)).さらに,が安定であるとすると,は命題4.22の仮定を満たすから,有限である.はウェイト加群であり,その各ウェイトの重複度は有限だから(命題4.10 (2), (3)),このとき,は有限次元である.
とし,三対によってを加群とみなす.すると,かつだから,は加群のウェイトの極大ベクトルである.したがって,系2.9より,である.これが任意の単純ルートに対して成り立つから,はに関する優整ベクトルである. ∎
定理4.30 (最高ウェイト理論)
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とし,をルート系の基底とする.
-
(1)
条件(CD)を満たす有限次元既約加群は,最高ウェイト加群であり,その最高ウェイトは,に関する優整ベクトルである.
-
(2)
に関する優整ベクトルに対して,Verma加群の既約商は,条件(CD)を満たす有限次元既約加群である.
-
(3)
(1)と(2)の対応は,条件(CD)を満たす有限次元既約加群の同型類とに関する優整ベクトルとの間の,互いに他の逆を与える一対一対応である.
証明
注意4.31
を標数の可換体上の分裂簡約Lie代数とする.
- (1)
-
(2)
が代数閉でなくが半単純でなければ,条件(CD)を満たさない有限次元既約加群が存在しうる.たとえば,とし,を次元可換Lie代数とすると,写像はの上の既約表現だが,条件(CD)を満たさない.
-
(3)
が半単純でなければ,(が代数閉であっても,)条件(CD)を満たさない有限次元加群が存在する.実際,であってを満たすものを一つ固定すると,写像はの上の表現だが,条件(CD)を満たさない.